Bande à pierrot

ティム・バートン、テネシー・ウィリアムズ、アレハンドロ・ホドロフスキー。

『ベイビー・ドライバー』なぜベイビーは音楽を聴いてるの?似ているキャラクターたちって?

8月19 日に公開されたエドガー・ライト監督最新作『Baby Driver(ベイビー・ドライバー』。車に音楽、バイオレンスにロマンス...『トゥルー・ロマンス』好きの私としてはもう「ありがとうございます」という感想です。笑 本編のお話はまたするとして、今回は『ベイビー・ドライバー』主人公、アンセル・エルゴートくん演じる“ベイビー”について考えたいと思います。

凄腕ドライバー“ベイビー”

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主人公ベイビーは強盗犯の逃走を手伝う、“Get Away Driver”をしてお金を稼いでいます。ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ドライヴ』でも、ライアン・ゴズリング演じる主人公がこの仕事をしていましたね。そんなベイビーは小さい頃の事故の後遺症で耳鳴りの症状があり、そのためにずっとイヤホンで音楽を聴いています。彼が使っているのは古い形の(一番最初ぐらいかな?)iPod!私も中学生の時に初めて持って、お気に入りの音楽をいれてずっと持ち歩いていました。あのごつっとしたフォルムって何だかかわいいですよね!さて、そんなベイビーなんですが、なんでそもそも“ベイビー”っていう名前なんだ?

(映画『ベイビー・ドライバー』のネタバレを思いっきり含みます。)

なんで“ベイビー”なの?

アンセル・エルゴートくん、“ベイビー”って言葉が似合いますよね...ピンク色のぷにぷにした唇にちょっと肉付きのいいほっぺたとか、腕とか...そういうことではなく、なんで名前が“赤ちゃん”なんだろうっていうのを私なりに考えてみました。

とりあえず、めっちゃ思春期

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ベイビーは“かっこつけてたい思春期の男の子”だと思います。笑 クライマックス、銀行強盗を終えてジェイミー・フォックスを串刺しにして逃走するシーン。ベイビーも追われてキャップとサングラスを店でとりかえるんですけれど、そこでちゃんと鏡を見て確認してる。笑 早くしないと警官追ってくるよ!って思いますよね。笑

デボラと初めてダイナーで言葉を交わす時も、嬉しさを抑えて平静を装ってるのがだだ漏れです。いつも無表情だけど、この時ばかりは顔がゆるんじゃってるし!“大人になりきれていない子供”ですよね、ベイビーは。

まだ“自分”がない

ベイビーはまだ(物語中盤まで)“自分”というものがないキャラクターだと思います。“自我”というものでしょうか。

彼は他人の言葉を録音して、曲にしたりしてたくさんテープを持っていますよね。会話の途中では、たくさん他の人や映画からの言葉、台詞を引用しています。字では「」で囲われている部分がそうだと思います。誰かの言葉を借りなければ、自分の気持ちを伝えることができない。まだ自分の本当の気持ちが分からない。“自我”が芽生えていない状態なのでは、と思います。まだ大人ではなく、“赤ちゃん”の状態なのですよね。

『B-A-B-Y』

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デボラがダイナーでこんな台詞を言いますよね。「ベイビーが名前なの?じゃあ全ての歌があなたの歌じゃない!」“ベイビー”親しい人に向かって呼ばれる言葉ですよね。彼がこの名前を名乗っているというのは、まだ甘えたい盛りの時に母親の存在を亡くしてしまったことが、大きいのかなと思います。ベイビーが音楽を好きなのも、歌を歌っていた母親の影響。(演じているのは歌手のスカイ・フェレイラちゃん)どんな曲で「ベイビー」と呼ばれる。音楽を聴き、何度も自分の(仮の)名前“ベイビー”が呼ばれるのを聴いて、母親のぬくもりを思い出していたのかもしれません。

なぜずっと音楽を聴いているの?

もちろん、耳鳴りを緩和するため...というのはあると思いますが、常にずっと聴いている!というわけではありません。(映画を観るまでどんな時でもイヤホンをしているんだと思ってました)ベイビーが音楽を肌身離さずいられないのは、もっと他の理由があると思います。

ベイビーにとって音楽は“◯◯”

ベイビーが事故にあってからイヤホンをずっと耳にしているかというと、そういうわけではありません。事故にあう前、幼少期からです。

母親にiPodをプレゼントした幼き日のベイビー。ベイビーにとってそのiPodは楽しむためのものにもなり、そして“逃避” “防御”の手段にもなりました。

ベイビーの母親と父親は喧嘩ばかり。ベイビーは両親の喧嘩を聞きたくなくて、部屋でイヤホンを耳にはめ、音楽を聴いています。事故に合う直前も両親は喧嘩、ベイビーが後部座席でイヤホンをしているところが映しだされていました。小さい時の両親の喧嘩ほど嫌なものってそうそうないですよね...他にそれを話せる人もいないですから、一人っ子だとなおさら。ベイビーにとって音楽は、聞きたくないものからの逃避であり、自分を守るためのものだったと思います。

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大人になってからもそれは変わってはいない、のではないでしょうか。ベイビーは闇の職業に手を染めたかったわけではないですし、悪党ではない。犯罪会議の時も(一応聞こえているみたいでしたけれど)イヤホンをして、もちろんカーチェイスの時も音楽を聴いて。あとベイビーはサングラスもかなりずっとしていますね。耳にいれたくない、目にいれたくない、外の世界と仕切りを作りたい。きっとそうすることで幼い時、自分の感情を守っていたベイビーの心のあらわれなのではないかと思います。

しかし!デボラとの恋によって、彼は“赤ちゃん”から“大人”へと成長を始めます。

“守られる側”から“守る側”へ

クライマックス手前、ベイビーは初めて自分の声を録音します。「この仕事をやるか?」「やるぞ」ベイビーの“自我”、自分が一歩進む決意を固めた瞬間なのでは、と思います。初めて自分の身を守るだけではなく、守りに入り逃げるだけではなく、戦いに飛び込んで“攻め”の姿勢になるんです。

ニューシネマだとベイビーも、もしかしたらデボラも死ぬかもしれませんが(笑)、『ベイビー・ドライバー』はきちんと刑務所に入りますね。罪を償います。もちろん刑務所ではiPodもありませんから音楽を聴くことはできませんし、サングラスもありません。耳にいれたくないことも目にしたくないこともたくさんあったかもしれません。でも逃避ではなく、きちんと自分の目と耳で外界と接する状況になった。ベイビーは大きく生まれ変わったと思います。最後に実はベイビーは本名じゃなかった!ということが分かりますもんね。刑務所から出る瞬間、彼は“赤ちゃん”ではなく、一人の青年へと。本来の自分へとなることができたのではないでしょうか。

無表情のキャラクターって...

ベイビー、めっちゃ無表情ですよね。「ウェス・アンダーソンの登場人物か!」と言いたくなるぐらい無表情です。ベイビーがサングラスをしてイヤホンをしているところを見て、話は全然違うのですがふとあの映画のキャラクターを思い出しました。

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『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』のジェイク・ギレンホール!全く一緒じゃないですか?笑

ベイビーはきっと、自分の感情を表現することをあまりしないで大人になってきたのでしょう。家族の消失が大きな要因だと思います。音楽が代わりに自分の心を歌ってくれるし、“逃避”になるし...この『雨の日は』のジェイクも、感情が無いキャラクターなんです。妻が死んでも、涙が出てこない男。そんな男が徐々に“破壊”をすることによって、自分自身を取り戻していきます。ベイビーが音楽を聴きながら、ノリノリで道を歩くシーン、この『雨の日は』でも同じようなシーンがあるんです。笑 ストーリーは違うけれども、“自分自身になる”というところでは似ているものがあるのかなと思います。

後思い出したのはフランス映画『アメリ』かな。この映画のアメリも母親を事故でなくし、父親はアメリを外界から遠ざけてしまいます。(学校に登校させないようにするんだったかな)だからアメリも孤独で、自分をうまく解き放つことができない。いつも微笑んではいるものの、表情の変化はありません。でも彼女も恋をすることによって救われる。ちょっと『ベイビー・ドライバー』と似ているかなと思います。

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こんな感じで“ベイビー”について考えてみました。父親のぬくもりを知らないベイビーは、ケヴィン・スペイシー演じるドクにやっぱり父親像を重ねていたんだろうとか、そんなことも考えてしまいますね...!カーアクション、音楽のセンスだけに止まらず、こういった“主人公の成長”が大きく描かれているところも『ベイビー・ドライバー』が高く評価されている理由の一つかもしれないですね。

次は映画全体のこと、音楽についてのことなど書こうかな。ここまで読んで頂いてありがとうございました!

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