Bande à pierrot

ティム・バートン、テネシー・ウィリアムズ、アレハンドロ・ホドロフスキー。

ベイビー&デボラは“ボニー&クライド”か?思い出すニューシネマ作品って?【ベイビー・ドライバー】

時に銀行強盗を犯し、時に人を殺し、そして愛し合いながら逃避行を続けるカップルは、これまで映画の中でたくさん描かれてきました。『ベイビー・ドライバー』でもそんな男女の逃避行する姿を観ることができますよね。

本作を観て、これまで映画に登場した激しくも素敵なカップルをたくさん思い出しました。やっぱり真っ先に頭に浮かんだのは俺たちに明日はない』(1968)のボニー&クライド。ニューシネマの先駆的作品ですね。

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今回は『ベイビー・ドライバー』の主人公カップル、ベイビーとデボラは果たして“現代のボニー&クライド”なのか、また一つ想起させられたニューシネマ作品について考えていきたいと思います。

 

(ここから先は映画『ベイビー・ドライバー』のネタバレを含みます。)

 

 

デボラとボニーの類似点

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ベイビー・ドライバーリリー・ジェームズ演じるデボラは、街のダイナーでウエイトレスとして働く女の子。『俺たちに明日はないフェイ・ダナウェイ演じるボニーも、もともとはウエイトレスとして働いていました。

この映画でデボラは、あまり自分の話をしないように思われます。今はウエイトレスをしているけれどこれからどうしていきたいとか、こんな夢があるとか...「妹の名前の曲の方がたくさんあるの。私の曲は1つだけ」そんな台詞があります。生活の中でも、妹に対して引け目を感じているのかもしれません。

そしてコインランドリーを使っているところから察するに、一人で小さなアパートなどに住んでいるのかもしれませんね。デボラはとってもキュートな女の子ですけれど、“あてのない日常”“宙ぶらりんな日常”を送る“漠然とした不安”を抱えていたのでは...と考えさせられます。

俺たちに明日はない』退屈な日々を送っていたボニーはクライドに出会い、目の前で強盗を働くクライドを見てついていくんです。デボラも一緒ですよね。ベイビーが初めて強盗団の面子と一緒に訪れた時も、びっくりするもののそのあと「なんであんな怖い人たちと一緒にいるの?危ない仕事してるのね!」とは咎めません。その後ベイビーはデボラの前で、強盗どころか銃をバディにぶっ放します。笑 それでもデボラはベイビーに「私もついていく!」って言う。デボラにとってベイビーは好きな相手であるのはもちろん、ここから連れ出してくれる、何か新しい刺激を与えてくれる相手であったのかなと思います。

ベイビーとクライドの類似点

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クライドとボニーの出会いは、クライドがボニーの家の車を盗もうとしたところからなんです。ベイビーももともと、車を盗もうとしたんですよね...それはデボラからではなく、ドクのところからですが。

幼くして両親を亡くし、里親に預けられたベイビー。優しいジョゼフだけれど車椅子のおじいちゃん。きっと魔が差して盗みを働こうとしてしまうほど、生活は豊かでなかったのでしょう。お金のために闇の仕事に手を染め、結果的に自分も人を殺してしまうことになる。あれ、『ベイビー・ドライバー』めちゃくちゃ真面目な話なのでは。

ベイビーとデボラはボニクラのように、銃弾に倒れるわけではありません。ベイビーは刑務所に入り、出所したところで映画は終わります。ん、出所?

もしかして...終わってない?

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ボニクラの2人が出会った時、ボニーはウエイトレス。そしてクライドは出所したばかり。ベイビーも最後は前科あり、そしてデボラもウエイトレス。ベイビー・ドライバー』のエンディングは、『俺たちに明日はない』の冒頭と全く同じ状況なのではないでしょうか。笑 

ベイビーはこの映画を通して自我が芽生え、“赤ちゃん”から大人へだんだんと成長したと思います。でもこれからの2人のことを考えると...ウエイトレスのデボラと、身寄りがいない前科ある青年。『卒業』(1967)のダスティン・ホフマンのような表情はしていないものの、これから大丈夫なん...ってちょっと思わされてしまいますよね。笑 もしかしたらこれからまた『俺たちに明日はない』のような物語が始まってしまうのでは!?なんて。そんなことはないにしろ、笑 最後ベイビーもデボラも不安は大きかったんじゃないのかなあ。

そんな理由から、ベイビーとデボラをボニー&クライドに重ねるところがありました。ボニクラも実際は2人だけでなく、強盗団を組んでいましたしね。大恐慌の時代、社会に対する鬱憤を代わりに晴らしてくれる存在であったボニー&クライド。ベイビーも“ベイビー”なんて名前をしていますが、アウトローなんですよね...

もう1組のカップル、バディ&ダーリン

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ラブラブシーンを見せつけてくれた強盗団のカップル、ジョン・ハムおじさま演じるバディとエイザ・ゴンザレス姐さん演じるダーリン。並んで銃をぶっ放すところではボニクラを思い出させましたが、この2人の熱いイかれっぷりはナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994)のミッキーとマロリーを思い出させました。あとはトゥルー・ロマンス』(1993)のクラレンスとアラバマ!「殺したなんて、ロマンチックだわ!」なんて台詞、アラバマも言ってましたもんね。笑 そういえば、ベイビーがバディを殺した後に気絶して、デボラが運転して逃げるシーン。これは『トゥルー・ロマンス』のこのシーンのオマージュなのでは?と思いました。

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(余談)あのニューシネマ作品との共通点...?

最後にもう一つ!ふと浮かんだニューシネマ作品が一つあります。孤独な男2人の奇妙な友情を描いた真夜中のカーボーイ』(1969)です。

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主人公のカウボーイ、ジョウ。彼はすごく孤独な人間なんです。家族もいなければ故郷では友達もいない、そして自分自身のことをよく分かっていないキャラクター。ベイビーも家族を幼い時に失い、本来の自分が分からないまま、大人になりきれないまま...といったキャラクターですよね。そんな2人の人物像も思い出すきっかけなのですが、もう1つの理由がこの『真夜中のカーボーイ』の挿入歌にあります。ハリー・ニルソンによる『Everybody's Talkin'(うわさの男)』

「みんな俺の話をしてるんだ

俺に奴らの声は聞こえない

みんな俺に目を向ける

俺に奴らの声は聞こえない」

そんな歌詞なのですが。どんな曲を聞いても『自分の名前を呼ばれている』ベイビー、イヤホンをして外界との隔たりを保っているベイビー、サングラスをいつもしているベイビー、何だかかぶっている気がしませんか...?この曲の場合『噂をしている』というニュアンスで、ベイビーの『いろんな曲で名前を呼ばれている』とは少し違いますけれども。でもこの曲の最後はこんな歌詞なんです。

「この愛を置き去りになんてさせない

絶対に君を手放したりしない」

真夜中のカーボーイ』を観てこの歌詞を考えると、とても切ない...!ベイビーもデボラに対してそんな気持ちを抱いているのかななんて思ったりして... 

『映画は終わっても、人生は続く。』痛快なアクションもユーモアたっぷりのストーリーはもちろん、ふとニューシネマ作品を思い浮かべてしまう、その先のことも考えてしまう。『ベイビー・ドライバー』そんな映画でした。だらだら長くなっちゃった。笑 読んでいただいてありがとうございました!