【超おすすめ戯曲】笑って泣ける作品とはこのこと!ニール・サイモン『ビロクシー・ブルース』あらすじ・紹介
こんにちは!Moekaです。
今日は今年読んだ本のなかで最も心に残った作品のひとつ、
ニール・サイモンによる戯曲『ビロクシー・ブルース』について書きたいと思います。
ぜひ『ダンケルク』をご覧になった方、もちろんまだ観ていないという方も手にとって頂きたい作品です。
『ダンケルク』も名もなき兵士たち、ごく普通の青年兵士たちが描かれていましたよね。この『ビロクシー・ブルース』も、徴兵されてこれから第二次世界大戦に向かう最中の青年たちが主人公の作品です。
“戯曲”ってぜんぜん読んだことがなかったのですけれど、今年はいろいろな戯曲作品に出会えた年でした。最初はかなり読むのに戸惑いました...笑 だって小説と違って、まず台本みたいに
登場人物A : セリフ(◯◯、声をはりあげて)
登場人物B : セリフ(部屋を歩き回りながら)
って書いてあるから、「オウッ」ってなりましたけれどw でも慣れてくると、だんだんキャラクターたちの声とか足音も聞こえてくる気がして...!そしてこの『ビロクシー・ブルース』は(今までド初心者だった私からみて)かなり読みやすい作品なのではないかな?と思っています。笑って泣ける青春物語なんです。
今回は『ビロクシー・ブルース』がなんでそんな最高なのか、そして今までの考え方を変えさせられたセリフについてご紹介したいと思います。
『ビロクシー・ブルース』の著者はアメリカの劇作家、ニール・サイモン。
(このおじいちゃんです。現在90歳!)
代表作は『おかしな二人』『サンシャイン・ボーイズ』など。ブロードウェイを代表する喜劇作家さんです。映画やテレビの脚本も手がけていて、トニー賞やゴールデングローブ賞、ピューリッツァー賞も受賞しております。この『ビロクシー・ブルース』もトニー賞受賞作。そして、ニール・サイモンの自伝的な作品なんですね。
ではではあらすじの方をご紹介していきます!
あ、『ビロクシー・ブルース』は1988年、邦題『ブルースが聞こえる』で映画化されているみたいです。監督は『卒業』『クローサー』のマイク・ニコルズ!ぜひ映画のお写真とともに読んでいただければ幸いです:)
物語は軍隊に入ったばかりの青年たちーーユジーン、ワイコフスキ、セルリッジ、カーニー、エプスタインたちが訓練所に向かうための汽車にゆられているところから始まります。
主人公のユジーン(映画で演じたのはマシュー・ブロデリック)は作家志望の青年。彼はこの汽車の中の出来事、まわりの仲間たちの様子をノートに何でも記しています。ユージーンには戦争の中で、密かに決意していることが三つありました。ひとつは作家になること。ひとつは生きのること。そして最後は、童貞を捨てること。
訓練所で彼らを待ち受けていたのはめちゃくちゃ厳しいトゥーミー軍曹(映画で演じたのはクリストファー・ウォーケン)。トゥーミーにしごかれながら、彼らは訓練所での日々を過ごしていきます。粗野な性格のワイコフスキ。ユダヤ人のエプスタインから学ぶこと。そして、可愛らしいデイジーという女性との出会い...これから戦争に向かう青年兵たちの青春を、ユーモアたっぷりに描いた作品です。
『ビロクシー・ブルース』、ノリがずっと男子校みたいなんですよ。笑 「お前の姉ちゃんめっちゃ巨乳なんだろ?」みたいな。笑 だから場面場面を想像しながら読むとすっごく笑えてきます。笑
キャラクターもみんな個性的すぎて、本には挿絵もなにもないのにそれぞれの声や顔が浮かんできちゃうほど。
ワイコフスキは何でも胃袋にいれるほど食欲がすごくて、乱暴者とか。(ジャイアンみたいなやつですね、きっと)
カーニーは当時流行していた歌手、ペリー・コモに声が似てていじられるとか。笑
エプスタインは読書家で頭が良い、でもデリケートで超消化不良とか。(僕、これ以外のものは食べられません...みたいな下りがあります)
そんな彼らの様子を主人公ユジーンが、私たちに語りかけるようにしてすすんでいくんです。映画『アルフィー』のジュード・ロウみたいに。でもただ笑える青春物、ってわけじゃなくて心に残るメッセージ、自分の“正義”とか“信念”について考えさせられるようなメッセージがつまってるのが『ビロクシー・ブルース』です。
(クリストファー・ウォーケン様、かっこいい!)
主人公のユジーン(ニール・サイモン自身ですね、きっと)は作家になりたいから、いろんなことをノートに書いているんですね。んで、ちょっと“傍観者でありたい”青年なんです。アメリカ人、ユダヤ人、アイルランド人と 国も違う、個性バラバラな青年たちが集まっているから喧嘩もおこります。でもあんまり“物事をややこしくしたくない”タイプ。でもちょっと弱々しいインテリ風のユダヤ人の青年、エプスタインは違うんです。
ある日ちょっともめごとが起こった時に、ユジーンはエプスタインに言います。
P87 ユジーン 「君ときたら物事をなんでそうややこしくしちゃうんだ?」
エプスタイン 「それだけ人生が面白くなる。」
ユジーン 「それだけ苦労も多くなるよ。」
エプスタイン 「苦労がなかったら1日は朝の11時でおわっちまうさ。」
(中略)
P88 エプスタイン 「首を突っ込んでみなくちゃね。ユジーン、君は人生に突っ込み方が足りないよ。」
ユジーン 「どういう意味?」
エプスタイン 「君は傍観者だ。いつも高みの見物だ。ひとの言動をノートに書き付けるだけ。思い切ってど真ん中に飛び込まなくちゃ。態度をはっきりさせなくちゃ。戦いに加わるんだよ。」
ユジーン 「なんの戦い?」
エプスタイン 「なんだっていい。自分の信じる道の。」
ちょっと...いいセリフすぎませんか...?
この作品を読むまではけっこう自分も“傍観者でいたい”がありました。争いというか揉め事には加わらないで、遠くからみていたい、みたいな。喧嘩とか人を傷つけるような揉め事はしたくないですけれど、“何もしない、戦いに飛び込まない”イコール“いいこと”ではないのだな、と思った瞬間でした。
それが自分の信じること、正義や信念と違うならば、思い切って議論に参加して戦うこと。何もなく苦労もなければ、1日は午前中で終わってしまうって。何か決して難しい単語は使われていないのに、ぐっと刺さるメッセージが詰まっているんです、『ビロクシー・ブルース』。
そんなこんなで物語はすすみ、ユジーンはデイジーという女性に出会い恋もします。いろいろあったけれどトゥーミー軍曹には最後泣かされる場面も...そして彼らは訓練所での日々を終え、戦場へと旅立っていく。心に残ったもうひとつのセリフは、こちらです。デイジーとお別れをしなくてはならない場面。
P159 ユジーン 「そのときぼくは、とても作家にはなれないと思いました。だってデイジー・ハニガンとこの10分間に感じた幸せを、ぼくはどんな言葉をつかってもとうてい表現できないからです。」
恋したときの幸せや別れなくてはならない悲しみ、そのときの甘い瞬間を表した素敵なセリフだと思います。でもニール・サイモンはユジーンにこう「作家にはなれない、とうてい表現できない」と言わせていますけれど、私たちに彼の感じた気持ちは伝わってきますよね。
だから“どんな難しい言葉を使わなくても、自分がその言葉ひとつひとつにしっかり意味をもたせていれば、自分がその言葉の意味を噛み砕いていれば、人の心に残る文章はできるんだ”と思いました。何か作品を作るというのは、自分が様々な体験をしないと生み出せないものなのだなあと...
笑って泣けて、自分の今までの考えが優しくひっくり返される、かもしれない『ビロクシー・ブルース』。きっと主人公の青年兵たちと一緒に、何かふっと胸がかき乱されるような青春を体験できるはずです。ではでは:)