Bande à pierrot

ティム・バートン、テネシー・ウィリアムズ、アレハンドロ・ホドロフスキー。

【旧作振り返り】ロマン・ポランスキー作品『赤い航路』感想/考察 この“愛憎”にHPをかなり持ってかれた

こんにちは!Moekaです。

突然ですけれど、自分は“恋愛映画”は「好きだけど、苦手」な気持ちがあります。笑

きみに読む物語』とか、あとはなんだろう..(出てこない)とか本当に素敵!って思うんだけれども、なんかこの心にじわじわ出てくる「違うの!なんか足りないの!」感。笑 あと単純に自分の中のすさんでるところを浮き彫りにされるから、「やめて!」ってなるんですね。笑

なのでこの前、「あ、これは確実に毒になりそう...」と思った気持ちで手に取ったのがロマン・ポランスキー監督作品『赤い航路』

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今回は2017年振り返り旧作編という事で『赤い航路』について書きたいと思います。

少し前に観たのですが、まだめちゃくちゃ引きずってます。笑 2,3日しんどいの、この作品のせいもあるかもしれない...笑

その理由は、『赤い航路』はある男女の愛憎劇を描いている作品なのですが

それ以上に(私にとっては)“ものを書けない苦しみ”というものが

グサグサ突き刺さってくる内容だったから、と思います。

 

(この記事は映画『赤い航路』のネタバレを含みます。)

物語の舞台は地中海豪華グルーズ船。結婚7年目のイギリス人夫婦、ナイジェルとフィオナ(ナイジェル役は若かりし日のヒュー・グラント)も乗客のうちの一組です。

その船の中でナイジェルは、車椅子のアメリカ人作家オスカーとその妻のミミに出会います。

オスカーはそれからナイジェルに、妻のミミとの出会いと波乱にとんだ恋愛、赤裸々な性生活などを(頼んでもいないのに(笑))語ってくるんですね。はじめは嫌がっていたナイジェルもその刺激的な内容に取り憑かれ始め、自分の妻との関係についても疑問を持つようになっていきます。

結末を書くと、オスカーは最後ミミを殺し、自分もその銃で自殺して幕を閉じます。

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このオスカーとミミの恋愛模様がまあすごくて。

  • バスの中でロマンチックな出会いをして、そのあと再開して、燃えるような恋に落ちる。
  • オスカー(彼は親の遺産で暮らしながら売れない小説を書いているんですが)は執筆活動よりも、ミミとの情事にふけってばかり。(そんなように描かれています。)
  • しかし2人はだんだんSMプレイにのめり込んでいく。(この時はミミがSで、オスカーがM側)
  • そのあとだんだんと2人はすれ違っていき、オスカーはミミを突き放すが、ミミは「あなたとさえ一緒にいれればいいの!」と泣きつき、オスカーはそれからミミにひどい事をたくさんします。他の女性と関係を持ったり、料理を作ったミミにひどい言葉を浴びせたり、挙げ句の果てには自分だけ飛行機を降りて、ミミをどっかにやらせたり...
  • そのあと事故に遭い、半身不随になるオスカーおじさん。
  • オスカーの元に再び現れたミミは、仕返しとばかりにオスカーにいろんな仕打ちをします。(どでかいろうそくを立てただけのケーキをあげたり、めっちゃ雑にシャンプーしたり、ここがなかなか笑えます。笑) それでもなんだかんだオスカーの世話をちゃんとするミミ。

そのあと2人は、「こんな憎しみあえる相手もなかなかいないやろ」ということになり、結婚。そしてクルーズ船に乗っているところで、ナイジェル達と出会う...という感じです。

 

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簡単な感想を書くと、ドSの人はドMにもなれるというか、ドMの人はドSにもなれるというか...笑 でもオスカーが言っていた通り、あれだけ憎しみあえるってことの裏返しは本当に“愛している人”なのかなあと思ったり。とりあえずSM描写(肉体とかだけじゃなく、精神的描写も含めて)『フィフティ・シェ◯ズ』なんか目じゃないぜ!

 

 

冗談はさておき、ただこの監督はロマン・ポランスキー「ただの男女の愛憎劇」じゃないだろうなってことは思うのです。

このアメリカ人小説家、オスカーはポランスキー自身とすごく似ていると思います。

オスカーはアメリカ人ですが、フランスのパリに拠点を置いている。ポランスキーポーランド人(フランスと二重国籍みたいです)でハリウッドで前は活動していたものの、1977年の強姦事件(彼は無実を主張しています)後はアメリカを捨て、ロンドン、パリに移住します。

途中でミミに「あんた英語もろくにできないから売れないんじゃないの?」とかオスカーが言われるシーンがあるのですが、何というかポランスキーのアメリカに対する怨念みたいなものがちらほら... 

 

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作家と突然現れた美しい女の子。この話はちょっと聞き覚えがありますよね、フランス映画の『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』です。『赤い航路』も、『ベティ・ブルー』とある種では似ている話だとは思います。

 

『ベティ・ブルー』では、ベティによってゾルグは“作家としての自分”をちゃんと見つけ出して生きていけるようになりました。ベティはゾルグの“クリエイターとしての化身”であったと思います。だから最後、“作家として”生きていこうと思ったから、必要のなくなったベティという人格はいなくなった。ラストシーンは猫ちゃんが見守っていますしね。

 

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『赤い航路』でも売れない作家オスカーの前に“ミューズ”ミミが登場します。しかし、オスカーは全く書くことができない。書いても売れない。

それでも、彼にとって創造欲をかき立てるであろうミミはオスカーの元から消えてくれない。他の女性と遊んでみたり、創作活動から離れてみても、最終的にミミは自分の前に現れる。憎んでも憎んでも、自分のそばにいるのはミミ。ミミは作品を生み出したいと願う、オスカー自身の姿であったかもしれません

 

何かを残したい気持ちがあるのに、書いた作品は売れない。執筆を嫌いになろうとしても、小説の呪いはどこまでもつきまとう。“創造欲”から逃れることのできない...

だからその苦しみを思うと、最後ミミを殺して、自分も命を絶つってなんだか納得できます。

文章に悩まされることはなくなっても、でも書けなくなったら、生きている意味がないと思うはず。それは死にたくなると思う。笑

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(ダンスシーン、セクシーなんだけど謎だった)

 

生きるのに不可欠、自分に不可欠だけれど、同時に首を締め心に闇をもたらす自らの“創造欲”との戦い... 『ベティ・ブルー』は静かで落ち着く、“青色”が基調でしたけれど『赤い航路』はタイトルにもあるように血のような“赤色”。思った以上にどろっどろでした、男女の愛憎劇とかそういうのを抜きにしても。

 

実はこの作品、ティム・バートン監督が“オールタイムベスト”の一つとして『ゴジラ』とかに混じって挙げているようなんです。この苦しみに、バートン監督も共感するところがあったのかしら、なんて。

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ポランスキー監督の人生やいろいろな事件のことを考えるともっともっと考察できると思うのですが、(ミミを演じたのは監督の妻のエマニュエル・セニエだし)今回はちょっともやもやを吐き出したかったのでこの辺で。笑

何というか、“ものを書く”というのは尋常じゃないエネルギーを使うものですが、しっかり生きていきたいものです...(ため息)