Bande à pierrot

ティム・バートン、テネシー・ウィリアムズ、アレハンドロ・ホドロフスキー。

【感想】『君の名前で僕を呼んで』なぜここまで美しい映画なのかについて考えた

 

「芸術とは、人間が心の中に高まる感情を最高最善のものへ移行させる人間活動である」ートルストイ

 

アメリカで一足早く『君の名前で僕を呼んで(Call me by your name)』を観た。

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良いところが書ききれないほどある。まず、映像の美しさ。彫刻のような主人公2人の艶めく肉体。ピアノの音色。同性同士の恋愛だが、そのことを社会問題などとはからめずに主人公の初恋、成長として描いているところも魅力だ。(主人公エリオの両親はオリヴァートの恋愛に気づいていたようだが、彼の気持ちに寄り添う姿勢を見せていた)

 

とても美しい映画なのだが、「ここがこうだから『君の名前で僕は呼んで』はすごい映画だ!」と、そう言い切れないところがある。いや、おそらく観る人達それぞれの内側深くに潜り込んできて、この映画に無意識に身を委ねてしまうところがあるのだと思う。それでふと、冒頭に書いたトルストイの言葉を思い出した。

 

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『Call me by your name』の原作者、アンドレ・アシマンはこの物語をあくまで自分の記録として執筆したそうなのだ。だからこの物語はとても個人的な感情が込められた作品ということだ。夏の初恋、愛を覚えることの喜びと痛み、自我の目覚め。その心の中に高まった感情が言葉となり、そして美しい映像とともに映画になった。世の中のためでもなく、ただ自分が愛した人へ捧げるラブレターとして、自分の尊ぶべき記憶を変換し永遠にする手段として。そうやってできた作品は本当に美しいものだと思う。そんな芸術の極致に達していると言えるからこそ、『君の名前で僕を呼んで』はここまで心を揺さぶるのではないかと。

 

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君の名前で僕を呼んで、僕の名前で君を呼ぶ。自分がいて、自分の中にあなたの存在を見つける。あなたの中に自分の存在を見つめる。名前を呼び合うごとに互いが互いの中に溶け込み一つになっていく。ガラスケースに入れて飾っておきたいぐらいになんて繊細で、官能的な言葉なんだろう。

エリオとオリヴァーのように、何もいらずとも精神的に惹かれ合う恋愛は儚くとも他には代えられない美しい輝きがある。1人の芸術家の記憶がたった1つの美しい物語へ、映画へと移行された。そんな瞬間を観ることができたのが『君の名前で僕を呼んで』だった。

 

 

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余談だけれど、友人と「なんで夏の恋はあんなに短く、それでも少し他の季節とは変わった恋愛として捉えられるのだろう?」と話をした。「暑いから」なんじゃないかという話になった。単純だが、あながち間違っていないのではないかと思っている。笑 あまりにも暑いと複雑な考えもやっぱりできなくなるし、衝動が先走ってしまうことが多い気がするのだ。冬など寒い時期はどうしても閉じこもったりして、内省的になりがちだけれど。エリオを演じたティモシー・シャラメくんを見て、夏に潜む魔物はこんな美少年なのではないかと、思ったりもした。