Bande à pierrot

ティム・バートン、テネシー・ウィリアムズ、アレハンドロ・ホドロフスキー。

【ネタバレ】『ダンケルク』本当に登場人物の内面描写は“無い”のか?ラストシーンの意味とは?

こんにちは!Moekaです。

今日お話しする映画は、今絶賛公開中のダンケルクです。

この記事では、“登場人物たちの役割(役割って言い方あってるか微妙だな)”“キャラクター像”“映画を観て思い出させられたこと”などなど書いていきたいと思います。(アバウトでごめんなさい)まず、映画を観て一番に思ったことは「単に映像がすごい、その場にいるような体験ができること以上の映画」ということかな。いや、すごいですよね。語彙が爆散するぐらいすごかったです。IMAXじゃないけど酔いました。でも、「アトラクションみたいな」特徴だけに注目されるのは、ちょっと悲しいかな...と思ったんです。

 

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(この記事は映画『ダンケルク』のネタバレを含みます)

 

まずこの『ダンケルク』、台詞がとても少なかったですね。冒頭の10分ぐらい、台詞なかったんじゃないかしら。しかしTwitterなどで「人物表現が少ない、わかりにくい」という意見をお見かけしましたが、それは決してそんなことないと思います。『ダンケルク』は無駄な贅肉を、できる限り削ぎ落としている作品と思います。キャラクターたちがどうゆう人物かは、彼らの行動や少ない台詞で読みとることができます。そんな彼らを追っていると、最後にふっと悲しくなったこと...それは戦争で生き残るのは、決して“罪がない者”、“人間として良くできている者”、“賢い者”、“人のために尽くした者”とは限らないということ。少しずつ、登場人物たちを振り返っていきましょう。

 

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まず最初はこの方から、ギブソンアナイリン・バーナード)。彼は兵士の遺体を砂浜に埋めていたところ、主人公トミーと出会います。

このギブソン機転が効く、賢い青年ですよね。負傷したイギリス兵を担架に乗せて、自分たちも救助船に乗り込むことを思いついたり(それは失敗してしまうのですが)防波堤に隠れることを思いついたり。トミーに水を与えたり、魚雷で沈没しかける船からトミーやアレックスを助けたりと優しい心も持っていると思います。しかし彼は、英国陸軍二等兵の服を着たフランス兵だったんですよね...中盤でギブソンは溺れて死んでしまいます。

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続いて、ジョージ(バリー・コーガン)。彼は小型船の船長ミスター・ドーソン(マーク・ライランス)に同行する青年です。もともとは行く予定ではなかっただろうに、ダンケルクに兵士の救出に向かうことを決めたジョージ。救出した英国兵(キリアン・マーフィー)に拒絶されても暖かい紅茶を与えようとしたりと純粋な男の子である印象を受けました。それでもジョージは死んでしまいます。その船の中で、悲運なことに...

 

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映画で大活躍していたこの方、英国空軍スピットファイアパイロットであるファリア(トム・ハーディ。凄腕パイロットのファリアはドイツ軍を次々と撃ち落とし、ダンケルク救出作戦に大きく貢献します。彼がいなかったらどうなっていたことやら...というぐらい、英雄として描かれていましたね。 マスクからのぞく、敵機を狙う瞳も印象的でした。しかしファリアは戦いの後、ドイツ軍に捕まってしまいます。ファリアはどうなってしまうのか。捕虜収容所に連れていかれ、労働に従事させられる日々が待ち受けているのかもしれません。

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さて、次はアレックス。1Dというと私の世代からすると、高校時代に熱狂したボーイズグループですよ...!ハリー・スタイルズ、髪の毛フワフワで超かわいかったんだから!!(私はゼインが一番好きでした。笑)このハリーが演じるアレックスは、トミーとギブソンに救出されるものの、後にギブソンスパイ疑惑をかけるというキャラクターです。あのシーンに「うわ、助けてもらったのに恩がないやつだな」と思った方も多いはず。このアレックスはトミーと共に生き残ります。

 

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最後は本作の主人公である青年、トミー(フィン・ホワイトヘッド)。最初の街中の銃撃戦、仲間が全員倒れても生き残ったトミー。ギブソンと出会い、ギブソンに助けられたトミー。ギブソンが死んでも生き残ったトミー。そしてイギリスに帰ることができたトミー。私はこのトミーの姿を見て、ある名作戯曲をふと思い出しました。それはアメリカの劇作家、ニール・サイモンによるトニー賞受賞作『ビロクシー・ブルース』(1985)です。

この『ビロクシー・ブルース』はこれから出征する青年兵士たちの姿を描いた青春喜劇なんですけれど。本書は戦闘シーンは出てきませんけれども、“名もなき兵士たち”を描いているという点では似ているかもしれません。これは作者、ニール・サイモンの自伝的作品といわれています。そんな『ビロクシー・ブルース』の主人公は、ユジーン・ジェロームという青年。そんなユジーンに関するこんな台詞があるんです。それは兵士たちを統率する、トゥーミー軍曹の台詞。兵士たちが腕立て伏せをさせられている場面にて。

 

「いいか、運命はいつもだれかただ乗りする役、うまい汁だけ吸って逃げおおせる役を作るのだ。この中隊ではそれはジェローム二等兵らしい。その結果、われわれはそういうやつらを憎む。その怒りと憎悪の冷たい壁に、彼は一人でこらえていくことを学ぶだろう。」

 

これは決して、ユジーンもトミーも“ただ乗りするずるい奴”と言いたいわけではありません。しかしトミーは、とても運が良い。あの街中で生き残ったのも、魚雷が直撃した時にギブソンに助けられたのも、最後にミスター・ドーソンの船に助けてもらったのも、“運が良かったから”なんですよね。

でもトミーはラストシーン、電車の中でダンケルクに関する新聞を読み上げ、とんでもない表情をします。恐ろしく悲しそうな瞳。それは生き残ってしまったという気持ちか、自責の念か...劇中終始鳴っていたチクタクという時計の音はもう止まっています。しかしトミーの気持ちはあのダンケルクに、まだ取り残されているような印象を受けたのです。そして彼はこれからも、戦いでの記憶にとらわれながら生き続けなければならないのだなあと。

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仲間の救出に大きく貢献した者、国が違くてもそばにいた者を助けようとした者。民間人であっても兵士の救出に向かった勇気ある者。『ダンケルク』は戦場では誰が生き残るかわからないと、戦争の恐ろしさや無情さが濃く描かれているように思いました。そしてダンケルク・スピリッツ”も。最初はフランス兵の救助を後回しにしていた大佐も、最後はフランス兵を助けるために自ら残るのですから。

 

今回、この映画を観るにあたってダンケルクの戦いについてちょっと調べてみたのですが、カレーという場所で包囲されていたイギリス兵は敵を引きつけておくために救出はされなかったのですね...映画は戦争のほんの一部分にしかすぎない、何百人ものトミーも、アレックスも、ギブソンも、ジョージも、いるということですよね。

 

ダンケルク』映画は終わっても、彼らの人生はここで終わりではない、戦争がもたらすむごさを知らされる作品でした。助かったと思っても最後にあのシーンを突きつけてくるノーラン...笑 『インセプション』や『インターステラー』とは本当に全く違う映画でしたね!次はどんな世界を作るのかなあ。