Bande à pierrot

ティム・バートン、テネシー・ウィリアムズ、アレハンドロ・ホドロフスキー。

【ネタバレ】映画『ELLE エル』考察 主人公はなぜレイプ犯を通報しないの?なぜアダルトゲーム会社社長なの?

こんにちは!Moekaです。

今回お話したい映画は2017年8月25日に日本で公開された映画『ELLE/エル』です。

監督は『氷の微笑』を手がけたポール・ヴァーフォーヴェン。原作は『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』のフィリップ・デジャン、そして主演はイザベル・ユペール...とんでもないタッグですよね。笑

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この映画は「レイプされた女性が、淡々と復讐をもくろみる」といった感じで紹介されている印象をうけます。イザベル・ユペール演じる主人公、ミシェルは自宅でいきなり覆面の男に襲われてレイプされるんですけれど、その後普通に掃除とかして、通報もしないんですよ。だから「レイプされたのに、あんな反応するなんておかしい!」って物議を醸されたようで...

でもこれは単なる“レイプされた女性”の話ではない、と考えました。観終わって思ったのは、“自分を押し殺して生きてきた人が、自立していくまでの物語”ということ。今回はそう考えた理由をお話していきたいと思います。

 

(この記事は『ELLE/エル』のネタバレを含みます)

 

物語はアダルトゲーム会社の女社長ミシェルが、自宅で覆面の男にレイプされるところから始まります。友人たちに「警察に言うべき!」って言われるんですけれど、幼い頃父親が恐ろしい殺人事件を起こしたことが理由で警察と関わりたくないミシェルは通報しません。その後社内でミシェルがモンスターにレイプされている嫌がらせ動画が出回るんですけれど、それはレイプ犯とは別の者の犯行で..とまあ、こういった感じのストーリーです。

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そのレイプ犯というのは実は隣人の(けっこう普通っぽい)妻持ちの銀行員、パトリックだったんですけれど、ミシェルはそれをわかってもなお通報せず、パトリックと関係をちょっと続けちゃうんですね。

ちょっとまず、このとんでもない主人公ミシェルのキャラクターを書き出してみたいと思います。

エロゲー会社の社長。社員から嫌われがち。女友達のアンナと経営している。

・離婚しているが、夫とは険悪ではない。一人息子はわりとしょうもないヤツで、その奥さんのことが気にくわない。

・夫の今カノ(若い美人)も気にくわない。

・母親は整形しまくり、若いボーイフレンド(脱ぎがち)がいる。

・父親はミシェルが少女の頃、近所で子供、動物を含む連続殺人を起こす。犯行後帰ってきた父親は家を燃やしはじめ、興奮状態になったミシェルは燃やすのを手伝う。

・アンナの彼氏と浮気真っ最中。

・アンナと昔セックスを試そうとしたけど(ミシェルはどっちかというと求められた方かな?)、うまくいかなかった。

キャラが濃すぎますね。濃すぎます。ここでミシェルをレイプした犯人、パトリックについてもちょっと書いてみようと思います。

・銀行員。そういう一面を見せなければ、普通のいい人。

・美人妻のレベッカは敬虔なクリスチャン。

・とにかく乱暴しないと興奮しないしセックスできない。

変態です。演じたロラン・ラフィットさんはなんでもフランスでは人気のコメディアンだそうで...ミシェル・ゴンドリーの『ムード・インディゴ うたかたの日々』などにも出演しています。

 

ミシェル、こわ〜いんです。クリスマスディナーに招いた元夫の今カノの食事につまようじを混ぜたり、(まだレイプ犯と知る前に)テーブルの下でパトリックの足をツンツンいちゃいちゃしたり。友達のアンナの彼氏とセフレになっていたり。なかなかいろんなことをやってます。笑 でもだんだん見ているとミシェル、「人にとにかく応えようとしているのでは...?」って思えてきちゃったんです。アンナの彼氏にオフィスで求められた時とか、アンナにベッドの中でキスされた時とか、パトリックにそういう性癖があるって分かった時とか...

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まだ幼い頃父親が恐ろしい事件を犯し、自分も様々な思いをしてきたミシェル。母親は整形しまくり、どう見ても財産目当てとしか思えない若い男の彼氏はいるし。彼女は誰にも理解されないまま生きてこなければならなかったのでしょう。ディナーの時、その時はちょっと「いいな」と思っていたパトリックに、自分の過去を饒舌に話すシーンがあります。きっとこの人なら分かってくれるかも、と本能的に思ったのかもしれませんね。彼女は“自分を押し殺して生きてきた、生きるしかなかった”んだと思います。思えばアダルトゲームも、“実生活では押し殺すしかない性的欲求をぶつける、解放する手段”ですよね。きっとミシェルはゲームはやったことがなくても、その欲求を発散したい人々の気持ちを理解できるのでしょう。

パトリックも自分の性癖をあけっぴろげにするわけにはいきません。隠さないと、まともな生活は送れませんよね。だから覆面を被り、“自分を殺して”ミシェルにぶつける。ミシェルはパトリックに自分と同じものを感じたのでしょう。だから通報はしなかったのでは、と思います。ミシェルも見えない覆面をしているようなものですから。

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ラストには母親も死に、自分の心の枷となっていた父親も死にます。ミシェルは「嘘はつきたくない」と言い、アンナに浮気していたことを告白し、パトリックにも「終わりにしたい、通報する」と言います。(息子のヴァンサンにパトリックは殺されちゃうんですけど。)ミシェルが自分を殺して生きるのをやめ、誰かに応えるだけでなく、初めて“自立”した瞬間だったのではないでしょうか。

ただちょっと気になるのはラストシーン。父親のお墓参りにきたミシェルのところにアンナがやってきて、「しばらく一緒に住んでもいい?」って言うんですよね。アンナはおそらくミシェルのことを、恋愛的な意味でも好意を持っているのかと...二人がどうなるのか、ミシェルがアンナをどう受け入れていくのか、その後が気になります。

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というわけで『ファイト・クラブ』が暴力賛歌の映画ではないようにこの『ELLE エル』はレイプの映画、というわけではないと思います。みなさんはどうお考えでしょうか?まあ変態映画といえば、変態映画なのかなあ...笑