Bande à pierrot

ティム・バートン、テネシー・ウィリアムズ、アレハンドロ・ホドロフスキー。

【旧作振り返り】映画『エターナル・サンシャイン』考察 恋愛で一番必要なのは、“○○こと”?

真の幸福は罪なき者に宿。
忘却は許すこと。太陽の光に導かれ、
無垢な祈りは神に受け入れられる。

 ーアレクサンダー・ポープ

 

2004年の映画『エターナル・サンシャインに引用されている詩です。

「さよなら」の代わりに記憶を消した。

別れた恋人たちがお互いの存在を忘れる“記憶除去手術”を受けるけれども、その後に待ち受けていたのは...頭の中を、夢と現実を行き来しながら、ミシェル・ゴンドリー監督の宝箱の中をひっくり返したようにカラフルにつづられる『エターナル・サンシャイン』は大好きな恋愛映画の一つ。個人的にジム・キャリーの顔芸はあまり得意ではないのですが(失礼)この作品だと内気な青年を演じていて、他の作品とまっっっったく別人に見える。コロコロと髪色が変わるケイト・ウィンスレットも、健康的でセクシーで素敵です♡

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正直初めて観た時は「えっ記憶消しちゃうの..?やだやだ悲しい!」となってしまって大混乱。笑 二回目に観た時は「すごく世界観好き。でも恋愛で必要なのは結局なんなのだろう?」と悶々。(思春期でした) そして今観返してみて、『エターナル・サンシャイン』の大きなテーマ、そして恋愛で大切なことは詩にもあるように“許し”なのではないかなあと思っています。

 

(この記事は映画『エターナル・サンシャイン』のネタバレを含みます。)

 

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「私はイカれた女なの。安らぎを求めているのよ」

ヒロインのクレメンタインはエキセントリックな女の子。(この台詞をみると意外と普通の可愛らしい子のような気がしますが...)まさに内気な主人公、ジョエルの世界に新しい“色”をもたらしてくれたような人物です。彼女とみる世界は彼にとって、今までと全く違ったものだったでしょう。

しかしそんな特別な彼女との付き合いも、時が経つにしたがって普通のカップルと同じようなものに思えてきます。「また今日も中華、僕らもどこにでもいるようなカップルに見えているのだろうか」魅力と思っていた彼女の性格もだんだん「やっぱ違うわ」と思ってくるように。そして些細なことで喧嘩をして別れてしまい、クレメンタインに続いてジョエルも記憶除去手術を受けます。

 

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特別だと思う人をそのままに止めておくには、その人の存在を葬り去るしかない。自分の中で殺すしかない。記憶を捨てるしかない。そうしたら「なんだ、やっぱりこんなもんだったじゃないか」なんて思うこともないし、がっかりすることもないから...

失われていく記憶をジョエルがさまようところで、まさにクレメンタインと同じように“殺し合い”もどきをするところがありました。枕を互いの顔に押し付ける場面です。自分の気持ちを、相手のことを、“特別”なままそこで殺してしまおうとしているのではないか、と思います。“記憶を消す”ということによって。しかしジョエルもクレメンタインも互いの思い出を失うけれども、また出会って惹かれあう。

 

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そこで思うのは、ジョエルとクレメンタインがまた出会って惹かれあうことになるのは、“運命の相手は何度すれ違ってもまた出会い、一緒になる”ということよりも“お互いのことを許すことができたから”だと思います。「忘却は許すこと」とアレクサンダー・ポープの詩にあるように、除去手術が“相手の存在を葬り去ること”ではなく“許しあうこと”であったから、そして忘れていく中で「やっぱり忘れたくない、愛している」と思ったからまさに“無垢な願い”が神様に受け入れられた...ということなのではないでしょうか。

 

一回忘れてしまったあとだから、またジョンはクレメンタインのエキセントリックなところに惹かれるでしょうし、クレメンタインはジョンの内気で優しげなところに惹かれるでしょう。手術を受ける前のように些細な喧嘩をすることもあると思います。でも2人は手術の時に残した“互いの悪口テープ”をもらったし(笑)、“互いの欠点も許すこと”を学びました。だからきっと今までより素敵な付き合い方ができると思うのです。

 

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時系列もごちゃごちゃだし、現実と脳の中の世界は入り乱れるし、少々難解に感時られますが恋愛で大切なことをファンタジックに描ききった傑作が『エターナル・サンシャイン』。すごく特別に思う人も、それが特別だと思えなくなった瞬間も、相手も自分のことも許して、そのあとにまた向き合えるような恋愛がしていけたらいいなと思います。