Bande à pierrot

ティム・バートン、テネシー・ウィリアムズ、アレハンドロ・ホドロフスキー。

【ネタバレ考察】ウェス・アンダーソン監督『犬ヶ島』はホワイトウォッシングなのか

(この記事は『犬ヶ島(Isle of Dogs)』のネタバレを含みます。)

 

ウェス・アンダーソン監督の新作ストップモーションアニメ映画『犬ヶ島(Isle of Dogs)』を一足先にアメリカで観てきた。

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アメリカで日本を舞台にした映画、画面のあちこちに漢字が現れるのは不思議な感じがしつつも少し誇らしい気持ちになった。アンダーソン監督の描く日本のディストピア未来はもちろんファンタジックだが何というかあまり違和感が感じられないものだった。時折漢字の使い方に突っ込みどころが感じられつつも、こうして見ると日本の文化はやっぱり奇妙なものだと感じさせられとても面白かった。何より海外の監督が手がける作品で“日本を舞台にした”映画は時折見かけるものの“日本人のキャラクターが登場する”映画は...あまり思いつかない!個人的に大好きなアンダーソン監督が日本を舞台に、日本人を登場させた映画を制作したのはとても嬉しかった。

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しかし幾つかの媒体でウェス・アンダーソンはホワイトウォッシングをしている」との記事を見かけた。理由は声優たちがスカーレット・ヨハンソンティルダ・スウィントンなど白人のキャストばかりだからだ。アンダーソン監督が『犬ヶ島』について最初に発表したのは確か2年ほど前、その頃は今よりも映画業界が多様性や男女格差問題について大きく触れていなかったのは事実だが、しかしもう少し熟考できなかったものかと。

 

しかし、アンダーソン監督は“わざと”白人の俳優たちを犬役に当てたのではないかと考えている。

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考えてみれば『犬ヶ島』は面白い話だ。もともと島国なのは日本、大陸に住んでいるはずの英語圏を話す者たち(日本人のキャラクターはそのまま日本語を話すが、犬たちの言語は英語に翻訳されているという設定になっている)が島流しにあっている。それは犬たちが犬インフルエンザを患い隔離されているという設定だからだ。私はこの犬たちは、現在の白人たちを表しているのでは、と思う。

 

今まで映画業界で白人の人種は大きな力を持っていたと思う。ここ最近は『スパイダーマン:ホームカミング』のようにヒスパニック系、アジア系など様々な人種に富んだ(日本語間違ってたらごめんなさい)キャスティングが行われるようになってきたが、少し前まではほぼ白人のみで固められた映画も珍しくなかった。しかしセクハラや男女差別などの問題が徐々に明るみになり、今まで強い力を持っていた特に白人男性達はバッシングを受ける立場にもなった。そして私がアメリカ(ロサンゼルス)に来て感じたことは、“白人達も差別を受ける”ということだ。人種で差別をすることは醜いことだ。今まで弱い立場にあった者たち、様々な人種が同じ権利を持っているべきだが、だからといって今までの強者と弱者の立場が逆転するのは、結局根本的な解決にはならない

 

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アンダーソン監督は映画内で多様性、様々な民族が結束することの大切さを描いていたと思う。この写真のシーン、同じ犬種の犬達とメインキャラである犬達が餌を取り合って喧嘩するのだが、様々な犬種のメインキャラの犬達が勝利する。また興味深いと思った描写は、ブライアン・クランストン演じる黒犬“チーフ”のシーンだ。チーフは劇中で文字通り“ホワイトウォッシング”されるのだ。あまりにも汚れているチーフを見かねたアタリはチーフをシャンプーしてやる。そうすると今まで黒犬だと思われていたチーフは実は白犬だったということがわかるのだ。

 

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黒人、今まで立場が弱いとされていた者、マイノリティ、その立場になった方が社会に溶け込みやすい時もある。しかし本当の自分のアイデンティティは今まで立場が強かった者、マジョリティ。それが少年によって明らかにされ、チーフがアタリという日本人少年を守るという使命に目覚める様子はちょっぴりほろりとさせられた。しかしいかにも反発をくらいそうな“洗って白くする”という描写をやってのけたアンダーソン監督はやはり、ひねくれたユーモアセンス(褒めてる)を持った人だなあとも思う。笑

そうして犬達は無事犬インフルエンザ(迫害されていた理由が解決)も治りメガサキ市に戻り、日本の人々と共存していくことができるようになる。

 

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思えばキャスティングはとても秀逸だ。日本の学校に来ているアメリカ人留学生トレーシー、彼女は犬達を迫害するメガサキ市長に抗議してアタリに協力するのだが、そんなトレーシーを演じるのは男性優位の映画界の中で、その実力で自身の作品を発表し続けている『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグだ。映画界に新しい旋風を巻き起す彼女だからこそ、アンダーソン監督はトレーシーにグレタを起用したのではないかと思っている。

『犬ヶ島』の白人キャストの起用は意味があり、“ホワイトウォッシング”ではないというのが結論だ。見当違いだったら島流し受けます。