【ネタバレ有】『女神の見えざる手』解説①主人公がクールな理由ー本当のフェミニズムとは?ソクラテスの弁証法って?
こんにちは!Moekaです。
(読者様が100人になりました💓 ありがとうございます!!!!!)
自分の中で下半期トップ5確実な作品に出会っちゃいました。
『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』『恋に落ちたシェイクスピア』『BFG ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』ジョン・マッデン監督による『女神の見えざる手(原題 : Miss Sloane)』です。
今年は“女性の社会進出”“フェミニズム”“男女同権”といったテーマを扱った数々の作品が公開され、たくさんのヒロインたちが活躍していたと思います。でもこの『女神の見えざる手』の主人公、エリザベス・スローンはずば抜けて格好良かった。そして、(ざっくりしてますが)素晴らしい作品でした。
今回は映画『女神の見えざる手』の何がそんなに格好いいのか、そして新たな女性像を描く映画が多い中で何がそんなに素晴らしいかについて書いていきたいと思います。
『女神の見えざる手』あらすじ
主人公、エリザベス・スローンは超敏腕ロビイスト。大手のロビー会社で部下を束ね活躍しています。
そんなある日彼女に持ちかけられたのは、“銃の規制緩和”銃の所持を支持するように政治家に働きかける仕事。その銃ロビーのおじさんたちはスローンに、「女性の君が女性たちが銃の所持を支持するように、仕向けてくれないか?」っていうんですね。スローンは断り、銃規制を支持する小さな会社に身を移します。その会社のCEOシュミットを演じるのが、『キングスマン』のマーリン先輩ことマーク・ストロング。
常に先を読み敵を欺き、味方にも手の内を見せない手段で彼女は政治家たちを次々と“銃規制支持派”にしていきます。そんな中、思いもよらない事態が起こって...という物語です。
スローンを演じたのはテレンス・マリックの『ツリー・オブ・ライフ』や『ゼロ・ダーク・サーティ』などで知られるジェシカ・チャスティン様。
クールでお美しい!(ピンヒールがずっと痛そうだった。笑)
ロビイストって何ですか
スローンの職業は“ロビイスト”。政治家じゃない“圧力団体”(この映画でいうと、銃の所持を支持する会社ですね)の利益を政治に反映させるために、政党や議員たちに働きかけるお仕事をする人たちのこと、だそうです。議会のロビーで議員たちと話し合うことから、この名前がついたそうです。
“ロビイスト”って全然ピンとこなかったので、ちょっとこの作品を観るか最初迷っていました...いや〜でも観てよかった!本当に!笑
映画の素晴らしいところをお話するにはネタバレがちょっと避けられないので、作品の内容を交えつつ書かせて頂きます🙇
(この記事は映画『女神の見えざる手』のネタバレを含みます。)
エリザベス・スローンはなぜそんなに格好いいのか
「あんたたち、分かって喋ってんの?」
格好いいヒロインはたくさんいますけれども、今作の主人公スローンが格好よかったところ。彼女は“自分がやっていることの本質が分かっていない人(こと)”“言葉の意味をちゃんと分かっていないこと”、曖昧なものが大っ嫌いなんです。笑
最初の方で会社の新人(ぽい)の青年に、仕事について問いかける場面があります。(台詞は忘れてしまいましたごめんなさい...)それに対して答えられなかった青年。スローンは言い放ちます。「午後までにこれ、暗記しときなさい。」彼女は自分自身がやっている仕事の意味を、理解していないことが嫌いです。言葉の意味を、はっきりと理解していることを好みます。
こんなシーンがありました。「マシュマロ・ケーキはケーキじゃないわ。小麦粉も卵も使われていないもの。マシュマロとクッキーよ。でもなぜケーキっていうかわかる?印象に残るからよ。」
ビジネスたるもの、“人の印象に残る”言葉を選ぶことは大事。でも「ちょっと違くても、もともとの意味を分かっておきなさいよ!」そんな彼女のポリシーが見えた瞬間でした。
「私を曖昧な倫理観で成り立ってる女だと思ってるわけ?」
彼女は強く自分の“倫理観”“信念”を持った人物です。「私は自分の信念にしたがって行動しているだけよ。」そんなセリフも劇中にあります。
最初、銃ロビー会社のおじさんたちに「銃の所持を女性たちに支持して欲しいんだ。女性の君にやって欲しい。“銃で子供を奪われた弱い母親”から、“銃で子供を守る強い母親”に。そんな戦略でいきたい」みたいな話をするんですね。スローン、大爆笑。笑
「私を曖昧な倫理観の上に成り立ってる女だと思ってるの?フリルと一緒にしないでよ!」そう言い放ち彼女は大手の会社をやめ、小さな銃規制を支持する会社に入ります。そして後半わかるのですが、マーク・ストロング演じるCEOはスローンに報酬を提示していなかったんです。だから彼女は金銭関係なく、本当に自分が正しいと思う道を勝たせたかった、ということが分かります。
それに彼女は友人や家族が銃の被害にあったとか、そういう描写はありません。彼女も「そういう理由がなきゃダメなの?」みたいなことを言っています。(ごめんなさい詳しいセリフ忘れました...)自分の正義に一直線。スローンの格好いいところです。
「私、フェミニストじゃないの(笑)」
ちょっと“フェミニズム”“ジェンダーについて”の視点から書きたいと思います。
途中でスローンが(自称)フェミニストの団体に会いに行くシーンがあります。そこで彼女は代表者に向かってバッサリ「私、フェミニストじゃないの(笑)」って言います。笑 そこで代表が一言。
「あなたって男みたい。」
いやいやいやいや。笑 女性と男性平等、男女同権を訴えているはずなのに、男性のこと馬鹿にしてるじゃん!この人!!!笑 矛盾してんじゃん!笑 スローン様は冷笑しておられました。
女性は男性より強い?それは本当の“フェミニズム”ではないと私も思います。
『アトミック・ブロンド』のロレーンとスローンの共通点。それは自分の仕事、任務をストイックにつとめあげているところ。男女関係なく、性別を超えてです。なにか自分の目的を成し遂げたい時、本当にやり遂げたい時、そこに性別は関係ない。「私は女だから〜じゃないの。私自身がこう思うから、やってるだけなのよ。」そんなメッセージが見えた瞬間でした。それに、“自分が支持してること、本当に矛盾してない?”“本当に理解して発言してる?”そんなメッセージも。フェミニズムについて考えるとき、“女性は別に男性よりえらい!ってわけじゃない”これはすごく大事なことだと思う...
(ちょっと余談)ソクラテスの弁証法について
スローンが仲間たちと喋っている様子、彼女の一貫した喋り方を通して思い出させられたことがあります。それは“ソクラテスの弁証法”です。
ギリシャの哲学者、ソクラテス。『ソクラテスの弁明』『プラトン』の対話篇などで、彼の哲学は知られていますよね。『ソクラテスの弁明』でも分かるのが、彼の対話術、問答法。それは“相手と対話して、意見の矛盾をつき、相手に自覚させ、論点の真相に迫っていく”というもの。
「これは〜〜だよね?」
「でもこれは〜だから...」
「それはあなたのさっきの意見と矛盾する。だからこういうことなんじゃないかしら?」
こんな感じに。映画を観ていて、この弁証法を想起させられました。みんなで“議論タイム”をもうけたり、人に問題を投げかけて答えを聞いて、それで話を進めていく。矛盾を一個ずつ潰していって、本質に迫っていく。スローンの会話はこうやって進められていたのではないかと思います。(冒頭にソクラテスの話もちょっとだけ出てきました。)
この“互いに意見を交わして矛盾を探し、無知を自覚させる”“根本に潜む問題の解決に当たる”というのはとても大切なのではないかな、と思います。日本の高校でもソクラテスの弁明、授業でやればいいのに...笑
と、ここまで“スローンの格好いい理由”について書きましたけれども、でもこれだけだと
「いやいや。信念を持つストイックな女性が、老爺たちを打ち負かす話やん。女性の自立、女性の社会進出、現代の女性像というテーマを扱った作品として、そんな『新しい〜!』っていう内容ではないのでは?」って話ですよね。でもそれは違うんです。
『女神の見えない手』素晴らしい理由、ちょっと長くなりすぎちゃいそうなので、次の記事で“ただ単に格好いい女性がアメリカを斬る”映画じゃないっていう理由を書きたいと思います。よければお付き合い頂けると嬉しいです!🙇