映画『ノクターナル・アニマルズ』登場するアート作品/衝撃のオープニングの意味とは?ートム・フォードのインタビューも和訳
こんにちは!Moekaです。
前回に引き続き、トム・フォード監督の『ノクターナル・アニマルズ』について
今回は“アート”に絞ってまとめたいと思います。
まず最初に映画の衝撃のオープニングシーン“裸で踊る大柄な女たち”について、トム・フォード監督のコメントと私の考察を書きたいと思います。
(この記事は映画『ノクターナル・アニマルズ』の超微ネタバレを含みます。)
裸で踊る大柄な女性たちの意味とは?
『ノクターナル・アニマルズ』はびっくりのオープニングで幕が上がります。『ネオン・デーモン』を彷彿とさせるキラキラとした紙吹雪(?)が舞い、現れるのは裸で踊る女性たち。しかも、かなりの巨体。でっぷりと太っているんですね。彼女たちは局部も隠さず帽子だけかぶったり、アメリカのフラッグを持ちながら楽しそうに踊っています。これはスーザンが開いた展示会の、アートの中の女性たち、でした。
この時点で「この映画ヤバイ」っていう空気が充満した劇場の雰囲気ったらもう。このオープニングのシーンについて、VULTURE誌がトム・フォード監督のコメントとともに記事にしていました。
「私はトム・フォードが彼女たちをキャストするまで、彼がこのような肥満のヌードボディーをアバンギャルドなギミックとして使用するとは思わなかった」ーNPR(のリンダ・ホームズのツイート
「私は映画は好きだったけれど、オープニングシーンにいい気持ちはしない」ーライターのジェン・マクドネルのコメント
オープニングシーンについてはこのようなコメント、疑問の声も上がっているようです。トム・フォードは次のようにコメントを発表していました。
「全ては少しばかりのおとぎ話のようなもので、(肥満の女性たちは)あなたを導いてくれる魔女のようなものだ。彼女たちはある意味ワルキューレ(戦場において死を定め、勝敗を決める女性的存在)のようなもの。映画全体にまじないを唱えている。だからあのシークエンスには様々な理由があるんだ。特に、観客を最初からぐっとつかみ、映画に引き込むために」
「僕は本当の芸術性を持たないアートの映画は好きではない。27年間ヨーロッパに住んでいたんだ。そこで考えた、僕がアメリカでギャラリーショーを持つとしたら何を言いたいのだろう?政治。アメリカに関する声明を出したい。そこで僕は子供の頃部屋にかけていた最高なポスターを思い出した。僕が自分がストレートだと思っていた時にかけたーーファラ・フォーセット(アメリカの80年代のセックスシンボル)が赤い水着を着たポスター。アメリカはいつも小麦色の肌、美しい歯、そしてお尻。それで、何を思う?僕は今、“貪欲で、老化した、悲しくて、疲れた”アメリカについて語りたいよ。」
「でも僕がヌード撮影をして、彼女たち(『ノクターナル・アニマルズ』オープニングの女性たち)に恋をした時に変わった。僕は自分の最初の気持ちに罪を感じたんだ。彼女たちはとても美しく、楽しそうにそこにいた。彼らは誰にも阻害されることなく、そして映画が伝えたいことの小宇宙だったことに気がついた。彼女たちは世の中がそうすべきだとしていた文化を放棄していた。とても自由なんだ。(映画の主人公の)スーザンが制限しているものだ。」
このような理由から、監督自身はお気に入りのシークエンスの一つなんだそうです。最後に「確かに肥満でなくてもよかったかもしれないがーーいずれにせよ、体の美しさを祝うことであり、私たちが美しさを考えることへの挑戦だ」と語っていました。
ここからは私の考察なのですが、彼女たちは“スーザンとは違い楽しそうに、幸せそうにしている”“型にはめられることなくのびのびとしている”存在という意味の他に
“意味がないアートが詰まった芸術もどきや、資本主義や偏った美容基準、貧富の差などの“負”がついて膨れあがったアメリカ”みたいなものを象徴づけている気がします。
この肥満の女性たちは大きなスクリーンの中でスローモーションで踊っているんですが、実際にうつ伏せに横たわって、ギャラリーに展示(?)されているんですね。「本当の芸術じゃないもので肥大しているものは、いずれ死んでいくよ」っていうようなトム・フォードの皮肉にも思えてしまいました。
登場するアート
『ノクターナル・アニマルズ』にはたくさんの芸術品が登場するところも見所の一つです。何個あったかな...
友人の家の玄関で登場するのは、『Looking for Needle(1958)』。アメリカの女性抽象画家、ジョアン・ミッチェルによる作品。
スーザンのオフィス、真っ赤な壁に飾られているのは『Nude in Convex Mirror(2015)』。アメリカの女性画家、ジョン・カリンの作品。美しい女性たちを奇妙にねじ曲げて描く絵が印象的な方です。
こんな感じの。
スーザンの家のリビングにあるのは、『23Snowflakes(1956)』。アメリカの彫刻家、現代美術家のアレクサンダー・カルダーの作品で、これはトム・フォードの私物なんだそうです。
スーザンの家の玄関に飾られているのは『Desert Fire #153(Man with Rifle)』。アメリカの写真家、リチャード・ミズラックの作品です。
『Desert Fire #153(Man with Rifle)』はこんな作品。一人の男がライフルをもう一人に向けて構えているのですが、向けられている男はカメラの方を見て笑っています。しかし彼の後方には煙が...決して“おふざけの瞬間”とは言えない、緊迫した空気のある作品です。この『ノクターナル・アニマルズ』にぴったりだと思います。
美しすぎる“背面死体”
『ノクターナル・アニマルズ』で強烈に印象に残ったショット、それは“女性の背面死体”です。
スーザンが元夫のエドワードから送られてきた小説の中で、主人公トニーの妻と娘は殺されてしまいます。2人の遺体が背を向けて真っ赤なソファーに横たわっているのですが、そのショットがなんとも美しかったです。
背中から腰、臀部にかけての美しいラインを見て想起させられたのはスペインの巨匠ディアゴ・ベラスケスによる『鏡のヴィーナス』。
ただ、背中を見せている裸婦像はたくさんあるので、どの作品が一番映画と合っているか考えるのはなかなか難しいものがあります...なんだろう...(わかったら追記します。)
『ノクターナル・アニマルズ』、アートへの造詣が深い方が観たらもっともっと様々な発見があるのでは、と思います。いろんな方の考察が知りたい!