Bande à pierrot

ティム・バートン、テネシー・ウィリアムズ、アレハンドロ・ホドロフスキー。

【あらすじ】ジョン・ル・カレ『スクールボーイ閣下』“私を愛したスパイ”の悲劇

こんにちは!Moekaです。

 

先日やっとこの本を読み終わりました。『裏切りのサーカス』原作、『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』の次作『スクールボーイ閣下(原題 : The Honourable Schoolboy 』

ジョン・ル・カレ御大によるスマイリーとカーラの宿命の対決を描く、『スマイリー三部作』の二作目です(『死者にかかってきた電話』『高貴なる殺人』もあるから五部作か)。刊行されたのは1977年で、英国推理作家協会賞を受賞しています。

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読むのに本当に、めっちゃくちゃ時間がかかりました。笑 正直あと三回ぐらい読まないと完全に理解できているか不安です...でもちょっと今回は最初に読んだあとの感想、『ティンカー・テイラー』などと絡めたりちっちゃな予備知識を絡めたりしつつ、この作品についてご紹介したいと思います。

『スクールボーイ閣下』あらすじ

舞台は1974年。英国秘密情報部“サーカス”は壊滅状態に陥っていました。原因はこいつのせい。

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サーカス幹部でありながらカーラの二重スパイ“もぐら”として動いていたビル・ヘイドンジョージ・スマイリーはそんなサーカスをなんとか救おうとして奮闘します。ヘイドンがどのようにカーラに情報を流していたのか、カーラにどうすれば大打撃を受けることができるのか...小さなおじさん(原作ではスマイリーは小太りの小さなおっさんです)はあちこち走り回って情報収集にあたりますが、なかなかうまくいかず疲労困憊...そんなある時、モスクワ・センターから巨大なお金が香港の大実業家、ドレイク・コウという男に流れていることがわかります。いったいこれはなんなんだと。笑 スマイリーはその謎を解明するために、新聞記者であり臨時工作員ジェリー・ウェスタビーという男を香港に派遣します。

実はその実業家、ドレイク・コウの弟ネルソンは、中国情報機関におくりこまれたカーラの二重スパイだったんですね。ウェスタビーが調査をすすめるうちにドレイクが企てている計画が明らかに。しかしスマイリーの思惑に反し、ウェスタビーは独自に行動をはじめ、そしてその先には悲劇が待っていた...

イギリス、香港、ベトナムカンボジアなど数々の国を舞台に繰り広げられる、まあ読みごたえたっぷりのスパイ小説なんです。

この舞台当時、ベトナムベトナム戦争末期。その戦争の描写やイギリスの植民地であった香港の様子などがとにかく細かく描かれています。“ヴィクトリア・ピーク”だったり“チャンギ”だったり、香港やらシンガポールやらたくさん知らない地名が出てくるので調べるのに苦労しました。笑 イメージをつけやすくするため、写真を調べながら読むと良いかもしれないです!

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(イギリス植民地時代の香港)

キャラクター、そして“女”たち

実はこの『スクールボーイ閣下』、スマイリーというよりはこの男が主役なんです。ジェリー・ウェスタビー。

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裏切りのサーカス』でもちょろっと登場しています。演じているのはスティーヴン・グレアム

タイトルである“スクールボーイ”とうのはこのウェスタビーのあだ名。“閣下”というのは彼が貴族の出であることを表しています。

このウェスタビーなんですがかなりの女好き、そして女運も悪くはない?男。笑(離婚歴はあって、娘はいます)金髪という描写もあったので、もしこの『スクールボーイ閣下』が映画化されるとしたら私はキリアン・マーフィがいいな...笑 

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裏切りのサーカス』はスパイたちの非情かつ数奇な運命を描いた物語であり、そして悲しい愛の話でもありますよね。『スクールボーイ閣下』も“スパイと女たち”の関係がかなり密接に絡んできて、これまた純愛の話でもあります...ウェスタビーの運命を狂わすことになるのは、ドレイクの愛人である金髪の美女、“リジー”という女。男たちに使われるリジーのことが気がかりになるばかりに...

『007』のジェームズ・ボンドは、女性関係もすごくイケイケ。笑 でもル・カレ御大の本を読むと、スパイという職業についたからには人をむやみに愛することも命取りになるというんだなということを思わされます...

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ジョージ・スマイリーは相変わらずアンへの思いがすごい。アンへの愛情によってつのるカーラやビル・ヘイドンへの憎悪が『ティンカー・テイラー』の時よりも濃く感じられます。コントロールに関する記述もちょっとあって、コントロールの奥さんは“夫は石炭委員会でなんかしている”と信じたまま亡くなったのだとか。コントロールはサーカス幹部の生活以外に、四つほど生活を持っていたようです。親しくて愛する人ほど自分の素性をいうことができないんですもんね。

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物語をとおして

この『スクールボーイ閣下」は上下巻。イギリスのスマイリーたち、アジアを飛び回るウェスタビー、そしてドレイク・コウやネルソン、登場人物も多くあちらこちらをいったりきたりするので把握するのにめっっっっっちゃくちゃ時間がかかります。そして、言葉が難しい!笑 指嗾(しそう)”とか誤謬(ごびゅう)”とか、見ないじゃないですか普段。笑 日本語を知ることって本当に大事だなあとしみじみ...でもだんだんクライマックスにむけて、一気に起こっていたことが収束していくというか、ストンとした印象を受けました。

スマイリーのことを父のように、師として、敬愛するギラムやウェスタビーの思い。自分の身を粉にして祖国に“借り”を返そうとするスマイリーの生き様。スマイリーに救われてきたウェスタビーのエピソードは、最後にすすむにつれてどんどん切なくなるものがあります。

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もし『スクールボーイ閣下』映画化するとしたら、英国俳優と香港俳優の共演を見られることになるんですよね...!笑 アジアとイギリスを舞台にまた『裏切りのサーカス』とは雰囲気の違った、でもあの静けさだったり重さだったりを残した壮大な作品になりそう。(いつか映画化まってます)

また読み返した時に考察などもっとできればつけたしたいと思います。次は『寒い国から帰ってきたスパイ』読もうかな...