Bande à pierrot

ティム・バートン、テネシー・ウィリアムズ、アレハンドロ・ホドロフスキー。

【旧作感想】台湾映画『百年恋歌』恋愛は不確かな中で歩み寄り続けること「Smoke Gets In Your Eyes」歌詞/和訳

 

久しぶりに「しばらく他の恋愛映画は観なくてもいいかな」という気分になる恋愛映画を観た気がします。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督による2005年の映画『百年恋歌』です。

 

(この記事は映画『百年恋歌』のネタバレを含みます。)

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『百年恋歌』は三つの話からなるオムニバス作品

第1話『恋愛の夢

舞台は1966年。兵役を控えた青年がビリヤード場で働く女の子に恋をするのですが、女の子はどうやらあちこちを転々としなければならないらしく...青年が女の子を追う形で展開される、ノスタルジックな恋物語です。

第2話『自由の夢』

今度の舞台は1911辛亥革命寸前の、世の中が動乱に満ちている時代です。今回は遊郭の芸妓と若い革命活動家のお話。2人は惹かれあっているのですが青年革命家は彼女を妾にしようとはせず、しかし芸妓の義妹はどんどん身請けの話が進んでいって...第2話はサイレントですが、芸妓が歌うシーンだけ歌声が流れます。

第3話『青春の夢』

最後の話は2005年。今度は惹かれ合う歌手の女の子とカメラマンの青年の話なのですが、青年にも彼女が、そして女の子にも同性の恋人が...孤独な現代の中で愛を求めてさまよう若者たちの物語でした。

 

面白いのは、すべての恋人たちを同じキャストで演じていること。女性役はスー・チー、男性役はチェン・チャン

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1911年、1966年、2005年と全く異なる時代での恋愛模様。もちろんそれぞれその姿は変わります。

携帯電話はないから、家の電話にかける。手紙を出す。若者たちが集うところはビリヤード場。惹かれ合うものもキスシーンなどはなく、初々しい甘酸っぱい気持ちで満たされる、そんな1966年代。

芸妓の彼女は彼のことを待つばかり。電話などの通信機器はもちろん無し。言葉も少なめ。(サイレントだし)1911年代。そして初めてベッドシーンも登場するのが2005年。携帯も普及し、簡単に連絡もとれるし会うことができる時代。ただ便利なこの時代に生きている2人の恋愛が、一番口の中に苦いものがこみ上げてくるように見えました。お互いに恋人がいるわけですし、バイクで疾走するシーンなどは孤独から刹那的に逃避しているようにも見えて...

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ただその中でも一つ、“手段(?)”は変わってもそれは“変わらないもの”として(超わかりにくくてごめんなさい)描かれていたもの。それは“言葉”です。あと、目に見える“文字”この百年のどの時代にも言葉があるのはそれはそうなのですが(笑)少しずつ形は変われど思いの丈を伝える“言葉たち”が印象的に描かれていたように思います。あと、音楽

1966年代、思いを伝えるのは“手紙”。青年は彼女に手紙を送り、だんだんと近づいていきます。そして何度も流れる往年の名曲、プラターズの『Smoke Gets In Your Eyes(煙が目にしみる)』アフロディティス・チャイルドの『Rain and Tears(雨と涙)』

1911年代では“字幕”が2人の気持ちを私たちに伝えてくれます。まんま目に見える“文字”ですね。笑 そしてサイレントですが、芸妓が歌を歌うところだけは音が聞こえます

2005年代では、女の子が歌手の役。彼女はカメラマンの男性のことを思って歌詞を綴り、そして曲を作ります。そして現代では“文字”はメールに。女の子の同性の恋人が彼女の浮気を思い、「死んでやる!」などとパソコンのノートにメッセージを残しているシーンがあるのですが...無機質な液晶の字体なのにどろっとした恋の恨みが伝わってきて、何とも言えない気持ちになった瞬間でした。

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そんな『百年恋歌』なのですが、私が一番好きだったのは第1話の『恋愛の夢』。

“恋愛ってなんだろう”というか“どういう感情や人間関係が恋愛であるのだろう”という疑問の正解はあるのかわかりませんが、個人的に一つ“不確かだからこそ、努力し続ける関係”であるのかな、と思います。自分の気持ちでさえよくわからないこともあるのにましてや他人の気持ちなんて全てわかるわけではないし、人間だからどんどん変化し続けていくし、今の時代は昔よりもたくさんの人と知り合えるからこそ“人間関係”がもろくなりやすいのはあると思います。いつかはどうなるか分からないけれども、違いが一緒に歩いていけるように努力し続けること。

どのお話の主人公たちもとても不安定です。第3話はお互い恋人がいる関係だし、第2話はお客と芸妓、妾にもなれない。第1話は兵役の青年と、あちこち移って生活しなければならない女の子。

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第1話は青年がどんどんどこかへ行ってしまう彼女のことを追って、それでやっと会うことができるんです。再会した2人はお互いに顔をほころばせるけど、なかなか話すことができない。それでも隣り合って一緒にご飯を食べる姿があまりにも初々しくて尊くて、なぜかここで泣きそうになりました。笑

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やっと会うことができたのに、明日の朝には青年は兵役に戻らなければならない。これから2人の関係はどうなるか分からないし、次いつ会えるかも分からない。本当に“不確か”なもの。でも最後雨の中で隣り合って手をつなぐシーンは、“恋愛は不確かなもの”でも“会えたその瞬間と、(冷たい雨の中でも)お互いの手のぬくもりは確かなもの”であると思わせてくれたとても美しいものでした。

 

ホウ・シャオシェン監督自身も若い頃は兵役に行っていて、そしてビリヤード場によく足を運んでいたのだとか。そこで流れていた曲が今作でも使われている『Smoke Gets In Your Eyes』なのだそうで。だから監督は青春時代の情景を作品に蘇らせたってことですね!素敵すぎる...

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この曲を聴くとあの時のあの場所を思い出すとか、あの人のことを思い出すとか...『百年恋歌』は“思い出の歌”が生まれる瞬間を見ることのできる映画であると思います。第1話はその瞬間を主人公2人と一緒に共有している感じがすごくして。第2話の神秘的な雰囲気、第3話の苦くて鈍痛が走るような物語も素敵だったんだけれど、第1話の青春の輝きは尊かった。まじで尊かった。笑

 

どこにいるのか、次はどこに行くのか、自分はどうしていきたいのか、そういった状況の中でももし互いに好きだと言える人ができて、関係が続くように努力していけたらそれは素敵な恋愛なんだろうな...

『Smoke Gets In Your Eyes』の歌詞が映画全体にぴったり(煙草の煙、というキーワードもあるし)でとても素敵だったので、最後に和訳を書いて終わりにします:)

 

『Smoke Gets In Your Eyes(煙が目にしみる)』

 The Platters

 

They asked me how I knew
My true love was true
Oh, I of course replied
Something here inside cannot be denied

They said someday you'll find
All who love are blind
Oh, when your heart's on fire
You must realize
Smoke gets in your eyes

So I chaffed them and I gaily laughed
To think they could doubt my love
Yet today my love has flown away
I am without my love

Now laughing friends deride
Tears I can not hide
Oh, so I smile and say
When a lovely flame dies
Smoke gets in your eyes

 

皆聞いてきたんだ
なぜこの恋が本物だとわかる?
もちろん僕はこう答えた
「心の中に感じるものを否定することはできないよ」

皆が言っている「いつか分かるよ」
恋をすると誰しも盲目になると
恋に燃え上っているときは
その煙で目が見えなくなっていることを
君も気付かなくちゃって

だから僕は皆をからかって陽気に笑い飛ばした
皆僕の恋を疑ってるんだね
でも今日この愛は去ってしまった

僕は愛を失ってしまった

友達は笑って僕をバカにするけど
僕は涙を隠せない

だから僕は微笑んで言うんだ
「愛の炎が消えるとね
その煙が目にしみるんだよ」