Bande à pierrot

ティム・バートン、テネシー・ウィリアムズ、アレハンドロ・ホドロフスキー。

マトリックスで学ぶ哲学ーソクラテスとネオの関係・洞窟の寓話

哲学/映画の授業で『マトリックス』がよく用いられている。この映画と『ソクラテスの弁明』『プラトンの洞窟の寓話』そしてデカルト、パトナムの『懐疑論』の関係を自分の忘備録として書きたいと思う。

ソクラテスの弁明

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始めにギリシャの哲学者、ソクラテスについて。

彼の弟子プラトンが記した『ソクラテスの弁明』はソクラテスが若者に悪影響を与えた、また無神論を唱えたという理由から裁判にかけられるところで始まる。ソクラテスは『デルポイの神託』から「ソクラテスアテナイで1番賢い男」と言われ、それが本当か否か確かめるため詩人、職人のところへ行き確かめるのだが詩人は持って生まれた才能によって詩を書くことができ、そして彼らはその詩の意味を説明することができないということで”賢い”には結びつかない。職人たちは自分の分野には詳しいものの、それによって「自分たちは他のことにも詳しい」と勘違いしてしまっていて”賢い”には結びつかないとソクラテスは判断。彼は『All I know is that know nothing』自分は賢くないということを知っている、と知るのだった。

裁判の果てにソクラテスは有罪判決をうけるけれども彼は死を恐れることは自分を賢く見せようとすることと同じであり、知識への妨害となる肉体を魂が離れ、無知を克服するために真実を認識する哲学は死への準備だと言い、死刑になる... といった内容が『ソクラテスの弁明/プラトン』である。

ネオ=ソクラテス

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マトリックス』のネオはソクラテスのような存在、と考えることができる。ソクラテスは“デルポイの神託=The Oracle of Delphi”から「お前はアテナイで1番賢い人間だ」と啓示を受ける。同様にネオも“預言者”に会いにいく。日本語字幕では“預言者”とされているが、英語ではそのまま“Oracle”なのだ。

ネオもソクラテスと同様、世の中の真実、真理ーマトリックスとは何か?を探し続けている。モーフィアスとネオの関係を考えるとソクラテスプラトンの師弟関係も彷彿とさせる。

プラトン 洞窟の寓話

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一応洞窟の寓話の概要を...

とある洞窟に捕らえられた囚人たちは、壁に映る影を“本物の現実”と勘違いして過ごしていた。ある日1人の囚人が解放され、外の世界に出た。くらい洞窟に慣れていた囚人はすぐに太陽を見ることができないが、最初に影を見て、次に水に映る物体を見、そして最後に太陽を見ることに成功する。しかしこの解放された囚人は再び洞窟に戻り、まだ捕らわれている囚人達を導いていかなければならない。

この洞窟が表しているのは私たちが今生きている世界、そして洞窟の外の世界というのは“Form”すなわち“概念”。『マトリックス』はこの『プラトンの洞窟の寓話』に最も沿ったプロットと言ってもいいかもしれない。

マトリックス=洞窟

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マトリックスはこの洞窟の寓話で言う洞窟を表す。ネオ達人間はマトリックスという仮想現実に住み、幻想=影を見ているのだ。ネオは寓話で言う解放された囚人に当たる。まず彼は白ウサギに導かれてトリニティ、モーフィアスに出会い、本当の世界=外の世界を見ることになる。彼が外の世界で目覚めるシーンでは彼の体は上に持ち上げられ、体が弱っているところから寓話によく沿っていることがわかる。ネオは真実=生きていた世界は“仮想現実”ということを知るが、再びマトリックスに戻って戦いを続けなければならない。

私たちが生きている世界もマトリックスのようなものだ。私たちは五感のレンズによって世界を見ているが、“概念=form”そのものを見ることはできない。しかしマトリックスというものが何か理解したネオが覚醒したように、見えているものだけに捕らわれず物事の本質を探索しようとする姿勢は私たちにとって大事なことに違いない。

デカルト、パトナムの懐疑論マトリックス

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私たちは夢を見ている時、その夢の内容は本物だと思うが、しかしそれは夢であり、本当の経験ではない。それと同じように今経験している出来事も“本当”なのかわからない...もしかしたら悪魔が私たちに錯覚を見せているだけなのかもしれない。フランスの哲学者デカルトは夢や幾何学を使って知識の基盤を再構築し、すべてのものを疑って、そして自分が存在している証拠を突き止めた。「I think,therefore I am(我考える、ゆえに我あり)」というやつである。

アメリカの哲学者Hilary Puthnam(ヒラリー・パトナム)もこんな説を唱えた。「神経学者がある人の脳に電気刺激を与えて脳波を操作すれば、脳はそれを現実だと勘違いして仮想現実が生み出される」これもまんま『マトリックス』の世界である。ネオたち人間は外の世界(マトリックスの外)では卵のようなカプセルに入れられ、刺激を与えられて仮想現実を見せられている。

この懐疑主義に関してはーもしこの懐疑主義が真実でなくとも、私たちは幻想を避けて真実を探し求めることについて、真実に沿って知識を確率できるように私たちは常に疑問を持ち、探索し続けることが大切だ、とデカルトから学ぶことができる。

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哲学が分かりやすく詰まった『マトリックス』はソクラテス、洞窟の寓話、デカルト、パトナムの話を踏まえてから見ると台詞や彼らのムーブメントがよく沿っていることがわかって面白い。哲学はただ学ぶだけではなく、この哲学者はこう言った、自分は賛同する、じゃあこれからどう動いていけばいいのか?と実践につなげることが大切なんじゃないかな、と思います(雑)