Bande à pierrot

ティム・バートン、テネシー・ウィリアムズ、アレハンドロ・ホドロフスキー。

サムとスージー発見...!映画『パターソン』舞台の街ってどんなとこ?ジャームッシュ作品に出てくるものって?

こんにちは!Moekaです。

 

昨日は前々からずっと楽しみにしていた映画を観に行ってきました。その映画とは...ジム・ジャームッシュ監督最新作『パターソン』です!

f:id:roserosemoeka:20170827163701j:plain

ジム・ジャームッシュ監督の映画は、ティルダ様とトムヒが共演した『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(2013)から約4年ぶりですね。ジャームッシュ、私が大好きな映画監督の1人です。『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991)、『ブロークン・フラワーズ』(2005)、そして『コーヒー&シガレッツ』(2003)...今回は新作『パターソン』について、お話したいと思います。内容にちょっとだけ触れますが、まだ観ていない方もぜひ読んで頂けると幸いです。

『パターソン』温かくユーモアに満ちた会話劇

f:id:roserosemoeka:20170827163717p:plain

舞台はアメリカニュージャージー州、パターソンという街。街と同じ名前を持つ男、パターソン(アダム・ドライバー)の1日は妻のローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)にキスをすることから始まります。パターソンの仕事はバスの運転手。帰ってきたらローラの夕食を食べ、愛犬のマーヴィンと散歩に出かけ、馴染みのバーに立ち寄って一杯のビールをのみ、ローラの隣で眠る。そして毎日を過ごす中で心に浮かんだことを、“秘密のノート”に詩としてしたためる。そんなパターソンのとある1週間を描いたお話です。

ジム・ジャームッシュ監督の作品は、“会話劇”が多いですよね。『パターソン』もナレーションなどはなく、(パターソンが書いている詩のナレーション?は入るけれども)彼と周りの人々の会話劇でなりたっています。

描かれているこの1週間の中でいきなり誘拐されるわけでも、デス・スターが完成するわけでも、彗星がふってくるわけでもありません。笑 ただ1日1日を淡々と映していく、そんな優しく穏やかな作品です。でもまず、なぜこの“パターソン”という街が舞台なのか?ということについて、調べてみました。

ミステリアスな街、パターソン

f:id:roserosemoeka:20170827164335j:plain

このパターソンはニュージャージー州に実際に位置する街。ジャームッシュ監督はこの映画『パターソン』を、25年ほど前からあたためつづけていたそうです。劇中でも登場する詩人、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズがパターソンに捧げた詩を読み、ある日ぷらりとよったのだとか。「歴史的にもとても興味深く、様々なアーティストと関連があり、特別な場所。とてもミステリアスなところだ」と仰っています。

パターソンは産業が発達していたところで、1800年代後半からは絹の生産が重要になり、通称“絹の市”とも呼ばれているんだとか。そしてその工場で働くために、多くの移民がやってきたようです。確かに映画を観ていても、白人の登場人物がほとんどいなかったと思います。バスの乗客たちの靴がアップになるシーンがあるのですが、男性たちの靴が古く汚れていたところをみると労働者階級の人が多いのかな、と感じさせられました。パターソンとローラも決して裕福ではないでしょう。そんなパターソンという街の背景が、そのまま作品に映し出されていたと思います。

日々の積み重ねが、美しい芸術を紡ぐ

f:id:roserosemoeka:20170827165639j:plain

映画『パターソン』に欠かせない要素が“詩”。主人公、パターソンは毎日を過ごす中で心に浮かんだ詩を、“秘密のノート”に書いているんです。ジャームッシュ監督も本作を『詩のフォームをした映画』と評しています。

パターソンは詩を綴るけれども、でもそれを発表しようとはしない。妻のローラに「あなたの詩は最高だわ!世に出すべきよ!」と言われても、そんなに乗り気ではない。ただ心に浮かんだこと、キッチンのマッチを見て思ったこと、ローラに対する愛を、自分だけのノートに記録する。パターソンの詩は決して難しい言葉を使っているわけではありません。韻を踏んでいる、というわけではない。でも聴いていてじっくりとああ、素敵だなあと。そんな気持ちになれるんです。等身大の言葉で表された愛情や感情はとても美しいものなのだと思わされます。

映画で詩を担当したのは、アメリカの詩人ロン・パジェット。『How Long』でピューリッツァー賞を受賞されている方です。今回この映画に、新たに書いた3編を提供されているそうで...詩って小説とは違い短いものですけれど、その人の思いの丈がいっそう胸に迫ってくる感じがします。

ジム・ジャームッシュ“一見平凡な毎日、同じような毎日の中で、少しのおかしさと楽しみを見つけて生きる”“何気ない日々の中に美しさがある”そのようなことを描かれている監督かと思います。

f:id:roserosemoeka:20170827171353j:plain

コーヒーとタバコがあれば、何だかちょっと幸せ。ブシェミちゃんやケイト・ブランシェットビル・マーレイなど豪華なキャストによるオムニバス形式の映画『コーヒー&シガレッツ』。ただただ登場人物たちがコーヒーとタバコを手にいろいろな会話を繰り広げるのですが、ただそれだけなのに本当に面白くて。笑

この『パターソン』主人公、パターソンの毎日も言葉にすると本当に同じことの繰り返しなんです。

朝起きる。ローラにキスをする。

コーンフレークを食べる。

出勤、仕事をする。

家に帰り、ローラの1日を聞き、夕食。

愛犬の散歩。

バーによって、ビールを一杯。

寝る。

でもそんな同じ毎日でも、少しずつ起こる出来事や心に思うことは、毎日少しずつ違いますよね。いま日本に住む私たちもそうだと思います。電車に乗る、今日は席に座れた、今日はランチがすぐ決まった、何か今日はねむい、今日は横断歩道に1度もひっかからない、とか。笑 ジャームッシュ監督作品の魅力は“明日も予定は今日と同じだろうけれど、何か変わったことを発見してみよう”とか“自分にしかない、少しの幸せを見つけてみよう”と思わせてくれるところが1つではないでしょうか。

ジム・ジャームッシュ、この形が好き?

f:id:roserosemoeka:20170827171933j:plain

今回映画を観て思ったこと。それは「◯の形がやたら出てこない?」ということです!ローラが作るカップケーキ、この写真なんか服もタオルもドット柄ですし、カーテンもですし...思えば『コーヒー&シガレッツ』コーヒーカップもお皿も上から見れば丸いフォルムですし、灰皿も丸かったり。『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』では、寝転んだティルダ様がぐるぐる回ってみえるショットがあったり...

f:id:roserosemoeka:20170827172202j:plain

この◯の形は人が過ごす1日であり、1週間であり、そして人生を表しているのかなと思います。朝がきたら夜がきて1日は終わり、また新しい日が始まる。月曜が来れば金曜日が来て日曜日になり、そしてまた月曜日。人が生まれれば死に、そして生まれ変わる。(輪廻転生の思想になりますが)

部屋にかかっているローラが作ったカーテンを見てパターソンが言います。「少しずつ違う丸なのがいいね」って。同じように始まり同じように終わるけれど、どんな1日も1週間もちょっとずつ違う、そんな意味があるのかなあなんて考えたりしました。

この『パターソン』、あと好きだったところは...時間がリアルに感じられたこと!すごいゆっくり進むんです。笑 家を出る。会社にいく。てくてく歩く。また帰る。ポストを確認する。ここからここまで進んで、ポストを確認して、もう1回ポストまで戻って...そんな時間の流れがとてもリアルに感じられました。バスの中の乗客の話を聞いて、パターソンがちょっとだけにやっとするところとか、朝目覚めて1番最初に見えるものだとか。本当に彼の日常をずっと見ているかのようなんです。

え、サムとスージー!

映画館を出た後すぐつぶやいちゃいました。笑 ウェス・アンダーソン監督ムーンライズ・キングダム』(2012)の主人公サムとスージー役、ジャレッド・ギャルマンくんとカーラ・ヘイワードちゃんが出てたんです!バスの乗客役で!パターソンに関連のあるアナキストの話をしているという、思わず『ムーンライズ・キングダム』ファンもにやっとしちゃうようなキャラクター。笑 これから観にいく方は何曜日に登場するか、ぜひ楽しみにしててください♡

f:id:roserosemoeka:20170827173445j:plain

「あ、やっぱイギー・ポップ仲良しだなあ」なんて笑っちゃうジム・ジャームッシュらしい演出もあり(笑)微笑ましくユーモアに溢れた作品『パターソン』。公開日に行ったら劇場は満席でした!もっと上映館が増えたらな、なんて...だんだんと秋を感じられるようになってきたこの季節に、ぜひ観に行ってみてください!