Bande à pierrot

ティム・バートン、テネシー・ウィリアムズ、アレハンドロ・ホドロフスキー。

【ネタバレ有】ジョン・ル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』登場人物/あらすじ/台詞紹介

こんにちは!Moekaです。

裏切りのサーカス』が好きすぎて、原作のスマイリーシリーズも読破せねば!と思いたち、『スクールボーイ閣下』の次に読んだのは『寒い国から帰ってきたスパイ』。『死者にかかってきた電話』(1961)『高貴なる殺人』(1962)に続く、ジョン・ル・カレ御大の小説三冊目です。(読む順番がバラバラになってしまっております🙇)『寒い国から帰ってきたスパイ』が刊行されたのは1963年ですから、ル・カレ御大はどんなスピードで執筆されていたんでしょうか...!恐るべき。

今回は『寒い国から帰ってきたスパイ』のあらすじ登場人物について感想、そして(現在)映画化したら...?などなどについて書いていきたいと思います。キャラクターの特徴など書くので、こんな感じなのか!とイメージをするのに役立てていただけたら幸いです。

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あらすじ

時は冷戦時代、薄汚れた壁でベルリンが東西に引き裂かれているころ。

英国秘密情報部(サーカス)のベルリンでの責任者である主人公、アレック・リーマスは任務に失敗したため、イギリスに呼び戻されます。(寒い国とはドイツのことですね。)

左遷され、酒に溺れて堕落していくリーマス。ついにはクビにされ、図書館で働くことに。そこで彼はイギリス共産党員の女性、リズ・ゴールドと知り合います。

そのあと彼は暴行を働きムショ入りに。出所した彼は東ドイツ情報部のスパイの男と知り合い、多額の報酬とひきかえにイギリスの機密情報をわたすことを承諾します。しかしこれはジョージ・スマイリーがコントロールと一緒に考えた作戦。リーマス東ドイツにわたり、冷酷な東ドイツ情報部副長官の男、ムントを失脚させるための策謀だったのです。

東ドイツ諜報局長の男、フィードラーに尋問されるなかで、ムントを裏切り者にしたてていくリーマス。冷戦の時代を舞台に非情なスパイの運命、戦争、思想が矛盾していく現実を描いた物語です。

今回ご紹介したい心にのこるセリフもたくさんあるので、のちのちネタバレをしていこうと思います...!

キャラクターたち

『寒い国から帰ってきたスパイ』はおなじみジョージ・スマイリーが主人公ではなく、これまた中年のスパイアレック・リーマスが主人公です。

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実はこの作品、1965年にマーティン・リット監督によって『寒い国から帰ったスパイ』として映画化されているんです。リーマスを演じたのは『アレキサンダー大王』『史上最大の作戦』のリチャード・バートン!!映画はまだ観ていないので観てみよう...リチャード・バートンはこの作品で英国アカデミー賞受賞アカデミー賞主演男優賞もノミネートされているのですね。

本によるとリーマス鋼鉄色の髪身長はあまり高くなくて目は薄い茶色だそう。服装は実用主義。で、少々...というかかなり大酒のみです。笑

お酒ばっかりのんでいたり、終始孤独を感じさせるところであったり、スマイリーもそうですが不器用そうなところに感情移入してしまう主人公でした。

現代でもし映画化するとしたら誰が演じるのかな...アイルランド系と書いてあったし、マイケル・ファスペンダー?でもジュード・ロウもなんだか雰囲気があっているような??(再度映画化まってます。)

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そんなリーマスと知り合い恋に落ちる女性、リズ・ゴールド。彼女はユダヤ系で共産党。映画ではリズではなく、ナンシーという女性がヒロインのようです。演じているのはチャップリンの『ライムライト』でヒロインを演じていたクレア・ブルーム

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本ではリズは“背が高く、胴も足も長く、不器量と美しさの間”と書かれていますがクレア・ブルームはまあなんと美しい。笑 後々詳しく書きますが、少し危険な人と思いながらも健気にリーマスを支えようとする姿、そして彼に真っ向から伝える言葉がとても印象的な女性でした。

物語のキーパーソンとなる男、リーマスが裏切り者に仕立てようとする男、東ドイツ情報部副長官のムント。彼はナチスで、非情に冷徹な男です。見た目は金髪を刈り上げているスポーツマンタイプ、若くても溌剌としてはみえない”のだそう。映画でムントを演じたのは、ピーター・ファン・アイクというドイツ出身の俳優さんです。

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確かに強面! 今だったら誰が演じるんだろう。でもやっぱりアウグスト・ディールに演じてほしいなあ...金髪姿がみたいっていうのもある...笑 

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彼は『イングロリアス・バスターズ』でヘルシュトローム大佐を演じた方です。あの冷酷な表情と佇まいは、場面を一瞬で凍りつかせていましたよね...

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東ドイツを訪れたリーマスを尋問するのはフィードラーという男。彼はよく尋問を任されており、元法律家、若くて黒髪に明るい茶色の目知性的だが残忍な男として知られていたようです。そして、ユダヤ。65年の映画で演じたのはオーストリア出身のオスカー・ウェルナーという方です。

 

(ここから先、本格的に『寒い国から帰ってきたスパイ』のネタバレを含みます)

 

“個人”は“思想”よりも大切だ

で、実はですね。

リーマスも恨みを抱えている、残忍な元ナチの男ムントは実は

イギリスに買収されていたんです。最終的にムントの命は助けられ、ユダヤ人であるフィードラーが殺されることになるのです。リーマスもリズもイギリスの策略に使われた、ということです。

自分が使われたこと、恋愛を利用されたこと、そして“ユダヤ人だから”フィードラーが殺され、残忍なムントが助けられたことにリズは終盤憤りをあらわにします。それに対し、「仕方ないことだ」というリーマス。リズは答えます。

あなたはわかろうとしないんだわ。(略)そうやって、あなた自身に言い聞かせてるだけよ。(略)だれにしろ、利用できる人間のヒューマニティを、そのまま自分たちの武器に変えて人殺しに使おうというのよ (P364)

「あなた(リーマス)の仲間は、だれよりも悪い人間よ。」「大切なことをバカにするからよ。真意と善意をさげすんで、愛情を軽蔑し...」(P365)

 

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 リーマスはこの作戦を通して、思想が定まっていない、民主主義と矛盾している社会、そして自分自身に気付かされます。フィードラーとの尋問のシーンに、こんなセリフがあります。

 

フィードラー「なにが自分の希望か知らないで、どうして自分の行動が正しいと確信できるんだね?」 「行動には正当性が必要だ。なにを根拠に、その行動を正しいと信じているか?」 (P209)

 

自分がはめようとしている男からこのようなセリフを聞くなんて。リーマスはリズにこぼします。「みんな人を人じゃないみたいに切り捨てる、それがいやでいやでたまらんのだ、でもそれが現実であるのは否定できない、それがおれたちの社会なんだ...」そしてひんやりとした臨場感ただようラストシーンへ。リーマスが選んだ人生の道とは...すんごいネタバレしちゃいましたが、ぜひぜひ、未読の方は読んでいただきたいです!映画観たら泣くかも。

 

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『寒い国から帰ってきたスパイ』を執筆された当時ル・カレ御大は実際に、西ドイツでイギリス外交官と偽って諜報活動をされていたんだそうです。『007』シリーズや『キングスマン』、ロマンあふれるスパイ娯楽作品ももちろん面白いですが、このル・カレ作品は自らを偽って生き続けなければいけない者の孤独、本来の目的や思想との矛盾から生まれる苦悩、切なくて悲しいけれどいかに人の愛情があたたかいものなのか、を感じ取ることができます。歴史背景、社会情勢も学ぶことができますね。

『ティンカー・テイラー』、『スクールボーイ閣下』もですが『寒い国から帰ってきたスパイ』忘れられない作品になりました...

 

次は『スマイリーと仲間たち』を読む予定です。順番ばらばらだから、あとで整理しないと...笑 ではではまた!