Bande à pierrot

ティム・バートン、テネシー・ウィリアムズ、アレハンドロ・ホドロフスキー。

【旧作振り返り】映画『髪結いの亭主』感想 初恋と最後の恋は似ているというけれど

その時も良いと思っても、「これは後から絶対に思い出す作品になる」という映画がある。先日観た髪結いの亭主』は、私にとってはその作品の1つとなった。

f:id:roserosemoeka:20171213152904j:plain

(この記事は映画『髪結いの亭主』のネタバレを含みます。)

 

髪結いの亭主』は1990年に公開された、パリス・ルコント監督作品

この物語は主人公のアントワーヌが、真っ黒な壁を背景に自分の頭を剃っているところから始まる。「頭には思い出がいっぱいだ」そんな台詞とともに、映像は一気に明るく暖かなものへ。12歳の夏、ノルマンディーで過ごしていたアントワーヌの記憶だ。

少年アントワーヌは理容室の女主人、シェーファー夫人に対して甘い感情を抱く。初恋であり、“性の目覚め”。そこからアントワーヌは「将来大きくなったら女の美容師と結婚する!」という夢を抱く。そして大人になり、彼はサロンで働く美しい美容師マチルドに出会い恋をし、2人は結婚するのだが...

 

f:id:roserosemoeka:20171213153343j:plain

ふんわりとした暖色を基調とした映像、タイル張りのサロン。マチルドの赤いドットのワンピース、花柄のワンピース、スカートからすらりと伸びる足、ちらりと見える柔らかそうな胸。とても“お洒落”で、甘美な映画だった。しかし甘美なのはアントワーヌの回想の中のこと。真っ暗な背景で語る現実(現在)との対比といったら...

 

“男”“女”の対比もすごくなされていたと思う。

性に目覚め、恋心を抱いたのは女性美容師。そこからアントワーヌは“理想”を追い求める。“美容師と結婚する”という夢を。無事に美容師であるマチルドと結婚、アントワーヌはいつだって店に居座って、自分の理想像であるマチルドを眺め、時には働いている時にもちょっかいを出したりする。アントワーヌはノルマンディーで過ごした、12歳の少年の時のままだ。時折彼が踊る、店の雰囲気にとても合っているとは言えない“変な踊り”を踊るのは、自身を夢から覚めさせないようにする一種のまじないのようなものだったのではないか、と思う。

 

f:id:roserosemoeka:20171213154001j:plain

 

対してマチルドは孤独な女性だ。「私には過去がないの」という台詞もあるように、彼女は1人で生きてきたのだろう。しかしアントワーヌに出会い、愛し愛される喜びを知る。しかし愛や幸せを知るということは、リスクを伴うことでもある。気持ちが深くなればなるほど、失う恐ろしさは膨らんでいく。「愛している振りだけはしないでほしいの」というマチルドの台詞には、そんな悲痛な思いが込められていたのだろう。甘い夢に浸っていたその時のアントワーヌは、彼女の言葉の重みを受け止めきれていたのだろうか...

 

愛が最高潮に達した時、それを止めるにはどうすればいいのか?マチルドがとった選択肢しかないのだ、きっと。

こういった映画を観ると恋愛は幸せなものだけれど、恐ろしく危険なものであると思う。2人だけの世界、とことんお互いを愛して酔いしれて、愛しているからこそその瞬間が終わってしまうことに怯えて。本当に恋に身を投じたら、マチルドのような行動に出ることはあるんじゃないのかと思えてくる。

 

f:id:roserosemoeka:20171213154949j:plain

この作品のテーマには“思い出”もあるんじゃないかと思う。思い出はいつだって美しい。その証拠に、回想シーンで現れるシェーファー夫人の遺体は、死んでいるのに伸びた白い足が印象的に映されている。マチルドもそうだ。アントワーヌの中でシェーファー夫人とマチルド、2人の女性は美しい思い出として生き続けるのだろう。そう考えると“10年はあっというまに過ぎた 喧嘩は一回しかしなかった”という台詞があるが、もしかしたら小さないざこざ(というか、マチルドが1人で思い悩んでいたこと)はもっとあったんじゃなかろうか...彼の中で“神聖な思い出”として美化されているだけで。それは悪いことでは、決してないのだろうけれど。

 

f:id:roserosemoeka:20171213160037j:plain

 

2人だけの世界で愛し合うアントワーヌとマチルドは、幻想と現実を行き来する姿はとても美しかったし、愛おしかった。今後アントワーヌはもう“理想”を追い求めることはせず、少年時代の初恋の呪いに縛られることなく歩んでいくのだと思う。綺麗な思い出に浸るのも良いけれど、現実の一瞬一瞬にもそのような愛おしさや美しさを見つけることができたらすごく幸せだなと思えた。甘くて苦い恋愛の難しさをまた改めて教えてもらった作品だった。もう少し大人になったら、主人公どちらかに強烈に感情移入してしまうこともあるんだろうか...

 

なぜ本を読むのか?について考えた+読書するときに実践していること/気をつけていること

昨日Twitterでお見かけしたタグ。#なぜ本を読むのか というものです。私はこのようにツイートさせて頂きました。

なぜ本を読むのか?今は電子書籍などでも簡単に本が読める時代。以前より本屋さんも少なくなっています。戯曲作品など読む人が少ない本は、回収されるために結構高いお値段で売られているものもありますよね。

私は小さい頃からお母さんに本を読ませてもらっていた記憶があります。推理小説が好きで江戸川乱歩や『シャーロック・ホームズ』シリーズ、あとは日本の宮沢賢治新美南吉も読んだっけ。太宰治夏目漱石を読むことができるようになったのは最近です(ちびっこの頃も読んだけど、わかんなかった...)。文章や映画が好きなのは、自分の人格は小さい頃の“読書”の経験が基になっている気がするので、お母さんにとても感謝しています。

今回はTwitterの文字数では収まりきれなかった“なぜ読書をするのか”という大きな問い、そして本を読む時に実践していること、気をつけていることについて書きたいと思います。

#なぜ本を読むのか

f:id:roserosemoeka:20171208155309j:plain

知らない美しい言葉に出会えるから

日本語って難しい!笑 本の中にはたくさんの言葉が詰まっています。今ではもう使われないいわゆる“旧字”で構成された漢字。哲学書が訳されたものを読むと特にたくさんの言葉に出会うことができます。繊巧”、“包摂”、“畢竟”なんて言葉普段は使いませんもんね。笑 私は将来ものを書く人になりたいと思っているので、本を読んで自身のボキャブラリーをどんどん増やしていけたらという気持ちです。

語彙が増えれば自分のことをもっと理解できるのでは?とも思います。“なんて言ったらいいかわからない気持ち”とかを説明できる言葉に出会えるかもしれないから

自分が探していた答えに出会えるから

f:id:roserosemoeka:20171208155826j:plain

考えても考えてもわからないことって多いです世の中...恋愛のこと、自分の夢のこと、将来のこと、大きくいうと人生のこと。でも本を読むとその疑問の答えに巡りあえることがあるんです。先人たちが記したものだから。

自分の疑問の答え、結論を知ることができる。それか今まではそう思わなかったけれど、「そうか、それって確かに疑問だわ」といった新しい洗練された問題に出会うこともあるかもしれない。「この人は今自分と同じ立ち位置にいる。そうか、こうしたら正解なのか」とわかること。哲学書は今まで考えたこともなかったような思想に出合わせてくれます。

でも本を読んでいろんな考え方に出会えば、「これは自分と違う」と思うこともある。自分はこっちの考えに賛同する、この意見には良いと言えない、それはなぜなんだろう?と咀嚼していくことが大事かと思います。

反面教師にできる(笑)

f:id:roserosemoeka:20171208161707p:plain

物語にはいろんなキャラクターが登場します。『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラのように、「散々いろんなことが降りかかるけど、1人でも前を向いてずっと生きていきたい!」っていう風に思わせてくれるキャラクターもいれば「あ、こういうことしちゃダメなんだ」って反面教師にさせてくれるキャラクターも。笑  こ

ういう恋愛の場合こんなことは言っちゃいけないんだとか、この人はこういう生き方をしたから破滅に向かったんだとか...本を読んでいる間に主人公たちと人生を共有して、自分も成長でき、学びがあるところも魅力なんじゃないかな。

“考える力”がつく

f:id:roserosemoeka:20171208160255j:plain

本は難しいです。難しい言葉がぎっしり並べてあるものもある。昔の本を読んでみればまず文法がわからない。笑 哲学書を読んでみれば、主語を見失わないようにするのが必死。笑  その上どんどん今まで知らなかった知識が提示されていく...読み終わったあともその本について考えます。「あれは結局どういうことだったんだろう?」「自分はこの考え方を受けてどう思ったんだろう?」自分なりの結論が出て、やっと「その本を読みきった」ということなのかなと最近思っています。

そうして考える力が身につけば、何か問題が出てきた時に解決しやすくなると思うんです。それに、“考えた方がいい問題”“話し合うべき問題”と、“別に深く考えなくていいこと”の区別もしやすくなると思います。思考力を高めるという点で読書はとても良いと思います。

“運命”と感じる言葉、一節に出会える

f:id:roserosemoeka:20171208160705j:plain

くさいですけど嘘じゃないです!!!笑 「そうそうこの文今の私にぴったり」「そういえばあの時はなんとも思わなかったけど、あの本に引用されていた詩は自分にとって大きな糧になってる」「難しい言葉は使われてないのに、あの文に救われた気がする」そんな“ピン”とくる言葉に出会える時がきます

私だったらニール・サイモンの戯曲『ビロクシー・ブルース』の中の台詞や『ダニーと紺碧の海』の台詞だったり、哲学書『ソクラテスの弁明』だったり。そこから考えが大きく変わったといっても過言ではないくらいの文、言葉を見つけるのは素敵な経験だと思います。それは先人たちがご自身の経験を、考えを書き記した“本”だから巡り会えることなんじゃないかな、と。

一つよりも、多くから

f:id:roserosemoeka:20171208161324j:plain

私はまた映画が好きなので、映画をより深く観るために本から知識を得ることは大事だなあ...と思っています。映画の中で登場人物たちが本を読んでいたり、哲学書や物語から台詞を引用してってことあるじゃないですか。例えば『アリスのままで』には“三人姉妹”や“エンジェルス・イン・アメリカ』という戯曲が登場します。哲学、詩、歴史、洋服、映画の原作...たくさんのことを知っていればその作品を読み解くのがもっと楽しくなると思うし、考察しやすくなると思います。

なんでも一つだけの理由(原因?)から考えるより、たくさんの分野から考えた方がいい気がします。(引用元がたくさんあるっていうのかな?)だから映画をしっかり観るためにも、読書も並行してやっていきたい!

 

読書する時に気をつけていること

f:id:roserosemoeka:20171208162039j:plain

なぜか小さい頃から速読の才能だけはあるようで、読むのはめちゃくちゃ早いです。(文字を追うというより、ページを見て文字が頭に入ってくるという感触です)でも今年でめっきり遅くなりました。それは本を開いている時にパソコンを開いて、ワードにメモっているからです。

さっきもお話した通り哲学書や昔の本はまず「読めねえよ」って漢字ばっかり。笑 最近からその本のわからない言葉、漢字などは全部パソコンで調べてワードに書いて、“自分なりのその本の辞書”を作りながら読むことにしました。(服や模様の説明は写真を挿入したり)哲学書だけじゃなく、ジョン・ル・カレ作品もすんごい時間がかかった...知らない国や地方がごまんと記されているので。この作業時間がかかるし、慣れない当初は面倒臭く感じました。でも慣れます、絶対。そしてすぐにはわからなくても、確実に自分のためになります。そして調べるのが当たり前のような本をたくさん読んでいると、もっともっと難しい本に挑戦しやすくなります。「読み応え」が実感できるというか。

もっと早くやってればよかった....

 

(ここからはちょっと個人的な話)

 

f:id:roserosemoeka:20171208162709j:plain

でも本も量をたくさん読むことではなくて、“選んで、その一冊を読み込む”ってことが本当に大事なんだなと実感しております...

作家さんによって文章も雰囲気も違いますし、その世界観に浸ることはとても楽しいです。でもたまに読んでいて、「あの本とこの本、言ってることが一緒な気がする」「これってあの考え方一緒なのでは?」「この答えよりもっと自分が納得がいく答え、この前読んだなあ...」と思うことがあります。同じことが書いてある本を読むよりも、全く違う本、新しいことが書いてある本を手に取る方が成長にはつながる、と思う。

今私はまだまだ知識の蓄積がない状態。だから今本を読む時は、なるべく昔に書かれた作品を読むようにしたいと考えています。それこそ哲学書だったり、20世紀前半に書かれたものであったり、映画史の本であったり。今は九鬼周造の『いきの構造』という本を、「アメリカにいく前に日本の心を知りたい!」と思って読んでいる最中です。

だから今の状態で本を読むとしたら、「何かの根本が書いてあるもの」「普遍的に繋がっているもの」をチョイスしたいです。読書はとても時間がかかりますし、1日の時間にも限りがありますから...こうして書いてみると、“本を選ぶ”というのも難しい。(「多読は罪」って、誰か言っていたような)

 

f:id:roserosemoeka:20171208163509p:plain

そんなわけで、#なぜ本を読むのか でした!いろんな人の意見も知りたい!

【日記】「ライターじゃなくなった時、今までよりもライターになれた」

 

 

 

※ただの日記のようなものです😭

 

 

 

22歳の誕生日前に、“21歳の一年間で学んだ/考えた5つのこと”というブログを書いた。それを読んだ友達がこんなことを言ってくれた。

 

「面白かったよ。あれは萌香にしか書けないよね。

前みたいにweb媒体で記事は書いてないけれど、その時より今の方が“ライター”だよね。」

 

その友達から私はたくさんのことを学んでいるので、そう言ってもらえたのはとても嬉しかったし、読んでくれたのも嬉しい反面かなり恥ずかしかった。笑

 

「前よりも今の方がライターだよね。」

 

すごく考えさせられる言葉だ。“ライター”って言っても、正直どこからどこまでライターと言っていいのかわからない。ニュースを伝えるのは記者さんなのか、ライターか。自分の意見や考えを書き連ねるのはコラムニストか。映画の考察を書くのは批評家さんか。町山さんは“映画評論家”だし...

一昨年から今年までweb媒体で“ライター”として記事を書いていた。海外の間で流行っているコスメは?人気モデルさんのお手本にしたいコーディネートは?あの映画のおすすめするところは?恋人と一緒に観たい映画おすすめ5選は?ファッションのお手本にしたい映画は?

今までに上がっている記事とは差がつくように、映画でもいろいろな視点から記事が書けるように自分なりに考えたし、努力した。音楽やファッションのこともたくさん調べた。でもその友達にもだし、とある雑誌の編集長の方からもこう言われることがあった。「君の文章は自己愛に溢れているわけじゃないし、文法も間違っているわけじゃない。読みやすいと思うよ。だけれど、誰にでも書ける記事なんだよ。」

 

言われた時はよくわかっていなかったし、「えっあんなにいろいろ考えたんにこれ誰にでも書けるんか...」と悲しくなった。笑 でも確かに“もうすでにあることを掘り返しているような”記事だったと今は思う。だから“誰にでも書ける”記事だった。

 

f:id:roserosemoeka:20171204182945j:plain

 

自分でブログを始めてからは、文章のうまさや良し悪しは置いておいて“自分にしか書けない記事”が少しずつ増えてきたのではないか、と思っている。この前の“学んだこと”の記事もそうだし、映画の考察/感想記事も、自分が思っていることをそのまま書くようになった。個人的な感情も交えて書くようにもなった。今回の記事みたいに、日記代わりとして書くこともあるようになった。でも個人のブログだからと言ってもちろん下調べを怠ったりとかはしたくない。もっと自分らしい記事が書けるように、自然とたくさんのことを今までよりも調べるようになった気もする。

 

TwitterFacebookですぐに拡散できる今、記事を読んでくださった方の反応をすぐに見ることができる。「面白かった」と言ってもらえるとすごくすごく嬉しい。それにたくさんの媒体がある今、“ライターです”と名乗ることはそこまで難しくはない...と思う。だけれど、“社会からライターとして思われること、誰かからその肩書きの人と観られること”と、“自分はライターだ、その職業の者だ”ということは、全然違うのだ誰かから“映画のことを書いているライターさん”と思われるように維持し続けることと、“自分が映画のことを伝える人、考える人”であるように維持し続けることはきっと熱量も全然違うんだ。

 

f:id:roserosemoeka:20171204183627j:plain

“その肩書きじゃなくなっても、自分がそういう人であり続けること”“社会からどう思われるかじゃなくて、自分がそういう風でありたいと思って行動し続けること”私は今年学んだことが多い一年だったけれど、これもそのうちの一つ。“自分はどうなりたいか、どうでありたいか?”ということは、これからもずっと問い続けていきたいと思っている。

 

 

【旧作振り返り】映画『エターナル・サンシャイン』考察 恋愛で一番必要なのは、“○○こと”?

真の幸福は罪なき者に宿。
忘却は許すこと。太陽の光に導かれ、
無垢な祈りは神に受け入れられる。

 ーアレクサンダー・ポープ

 

2004年の映画『エターナル・サンシャインに引用されている詩です。

「さよなら」の代わりに記憶を消した。

別れた恋人たちがお互いの存在を忘れる“記憶除去手術”を受けるけれども、その後に待ち受けていたのは...頭の中を、夢と現実を行き来しながら、ミシェル・ゴンドリー監督の宝箱の中をひっくり返したようにカラフルにつづられる『エターナル・サンシャイン』は大好きな恋愛映画の一つ。個人的にジム・キャリーの顔芸はあまり得意ではないのですが(失礼)この作品だと内気な青年を演じていて、他の作品とまっっっったく別人に見える。コロコロと髪色が変わるケイト・ウィンスレットも、健康的でセクシーで素敵です♡

f:id:roserosemoeka:20171130193416j:plain

正直初めて観た時は「えっ記憶消しちゃうの..?やだやだ悲しい!」となってしまって大混乱。笑 二回目に観た時は「すごく世界観好き。でも恋愛で必要なのは結局なんなのだろう?」と悶々。(思春期でした) そして今観返してみて、『エターナル・サンシャイン』の大きなテーマ、そして恋愛で大切なことは詩にもあるように“許し”なのではないかなあと思っています。

 

(この記事は映画『エターナル・サンシャイン』のネタバレを含みます。)

 

f:id:roserosemoeka:20171130194747j:plain

「私はイカれた女なの。安らぎを求めているのよ」

ヒロインのクレメンタインはエキセントリックな女の子。(この台詞をみると意外と普通の可愛らしい子のような気がしますが...)まさに内気な主人公、ジョエルの世界に新しい“色”をもたらしてくれたような人物です。彼女とみる世界は彼にとって、今までと全く違ったものだったでしょう。

しかしそんな特別な彼女との付き合いも、時が経つにしたがって普通のカップルと同じようなものに思えてきます。「また今日も中華、僕らもどこにでもいるようなカップルに見えているのだろうか」魅力と思っていた彼女の性格もだんだん「やっぱ違うわ」と思ってくるように。そして些細なことで喧嘩をして別れてしまい、クレメンタインに続いてジョエルも記憶除去手術を受けます。

 

f:id:roserosemoeka:20171130195155j:plain

特別だと思う人をそのままに止めておくには、その人の存在を葬り去るしかない。自分の中で殺すしかない。記憶を捨てるしかない。そうしたら「なんだ、やっぱりこんなもんだったじゃないか」なんて思うこともないし、がっかりすることもないから...

失われていく記憶をジョエルがさまようところで、まさにクレメンタインと同じように“殺し合い”もどきをするところがありました。枕を互いの顔に押し付ける場面です。自分の気持ちを、相手のことを、“特別”なままそこで殺してしまおうとしているのではないか、と思います。“記憶を消す”ということによって。しかしジョエルもクレメンタインも互いの思い出を失うけれども、また出会って惹かれあう。

 

f:id:roserosemoeka:20171130200012j:plain

そこで思うのは、ジョエルとクレメンタインがまた出会って惹かれあうことになるのは、“運命の相手は何度すれ違ってもまた出会い、一緒になる”ということよりも“お互いのことを許すことができたから”だと思います。「忘却は許すこと」とアレクサンダー・ポープの詩にあるように、除去手術が“相手の存在を葬り去ること”ではなく“許しあうこと”であったから、そして忘れていく中で「やっぱり忘れたくない、愛している」と思ったからまさに“無垢な願い”が神様に受け入れられた...ということなのではないでしょうか。

 

一回忘れてしまったあとだから、またジョンはクレメンタインのエキセントリックなところに惹かれるでしょうし、クレメンタインはジョンの内気で優しげなところに惹かれるでしょう。手術を受ける前のように些細な喧嘩をすることもあると思います。でも2人は手術の時に残した“互いの悪口テープ”をもらったし(笑)、“互いの欠点も許すこと”を学びました。だからきっと今までより素敵な付き合い方ができると思うのです。

 

f:id:roserosemoeka:20171130200613j:plain

 

時系列もごちゃごちゃだし、現実と脳の中の世界は入り乱れるし、少々難解に感時られますが恋愛で大切なことをファンタジックに描ききった傑作が『エターナル・サンシャイン』。すごく特別に思う人も、それが特別だと思えなくなった瞬間も、相手も自分のことも許して、そのあとにまた向き合えるような恋愛がしていけたらいいなと思います。

Twitterのタグ#名刺代わりの映画10選 で自己分析記録パート②

前回に引き続いて、Twitterのタグ #名刺代わりの映画10選 の

続きを書いていこうかと思います:) 後で見返した時、「自分こういう理由で選んだんだ」って思えるように!笑

 

 

(5作品のネタバレをちょこちょこ含みます。)

 

価値観(影響を与えられたもの)編

1.時計仕掛けのオレンジ

f:id:roserosemoeka:20171128153530j:plain


今の自分自身にも生活にも映画は絶対欠かせないものですが、その“映画”に大惚れしたきっかけの作品の一つがこのスタンリー・キューブリック監督の『時計仕掛けのオレンジ』。初めて観たのは14歳とか15歳の時だったかな。交響曲第9番』『泥棒かささぎ』『雨に唄えばクラシック音楽にのせてコミカルに凄惨に描かれる暴力描写、近未来の美しいディストピア世界、アレックスたちのナッドサッド語...暴力というアイディンティティを持つアレックスに、正直その時どう作用されたのかは自分のことですが今でもよく分かりません。ただこの作品以上に五感全部で惹かれるような映画は無い気がしたので、10選にチョイス。

『時計仕掛けのオレンジ』が公開されたあと、登場人物たちを真似てか様々な事件も起こったし、監督のもとには脅迫状も送られてきたそうですね。でもそのあとにキューブリックが放った言葉「芸術家は、芸術にだけ責任を持てばいい。」この言葉もひっくるめて、“名刺代わりの映画”でもあり“オールタイムベスト”はやっぱりこの作品だなあ。

 

2.エンドレス・ポエトリー

f:id:roserosemoeka:20171119185015j:plain

つい最近観たばかりのアレハンドロ・ホドロフスキー監督作『エンドレス・ポエトリー

 御年もう90歳...?のホドロフスキー監督の魂の叙情伝を“名刺代わりの映画”に入れちゃうなんてのはものすごくおこがましいことだと思うのですが(それはどの作品にも言えるか)。でも『エンドレス・ポエトリー』は数ある人生が前向きになれるような、気持ちを奮い立たせられるような映画の中で一番個人的な感情に突き刺さった作品です。自分が観たタイミングがちょうどよかった、ということもあります。

これからいままで生きてきた人生よりもっともっと長い時間を生きていく中で、全ての瞬間を受け入れて、肯定して、そして台詞にもあるように“背水の陣”で突き進んでいこうと決意させられました。

3.ファイト・クラブ

f:id:roserosemoeka:20171128153538j:plain

この作品にどれだけの人が衝撃を受け、奮い立たせられたことでしょう。私もその1人です。

「まず最初に頼みがある。俺を思いっきり殴ってくれ」何度観てもあの台詞一つ一つにぞくっとさせられます。笑 感想を語る上で使い古されている言葉かもしれませんが、なんかこう...「やってやる!」ってなりますよね。笑 「生きるぞ!」って。笑 痛みから逃げないこと、自分自身と向き合うこと、成長する上での苦しみを恐れないこと、鏡に映る自分をいつか愛せるようになること。10代のうちに観ておいてよかったと思っています、本当に。“戦いに飛び込んでみること、自分自身の”この映画を観るたびに思わされる気持ちを忘れずに毎日を過ごしていきたい、と思います。

 

4.ベティ・ブルー 愛と激情の日々

f:id:roserosemoeka:20171128153532j:plain

1年前だったら、この映画は“恋愛に影響したもの”としてチョイスしていたかもしれません。以前このブログで“ベティ・ブルーは恋愛映画ではないということがわかった”と書いたことがあります。今はこの作品もファイト・クラブ』と似たような映画として観ています。

小さい頃から、“小説家になりたい”という夢をこっそり抱いています。自分も物語を書きたいなあと。たまに短い物語や詩を書いていますがどれも後から読み返せば、「これ絶対もうすでに世の中に存在してるやんけ」と突っ込みたくなるようなものばかり。笑 『ベティ・ブルー』のゾルグも小説家になりたいという夢を持っていますが、なかなか行動に移そうとしません。そこに舞いおりるのがいわば『ファイト・クラブ』のタイラーのような存在、ベティ。彼女はゾルグに“小説家になる”という夢を定めさせて、そして彼の元をそっと去っていきます。ゾルグはベティという存在なしで歩んでいけるようになる。

 

ただやっぱりベティの燃えるような愛に惹かれるのも事実。笑 人間関係や愛情というのは、その人とその人“一対一”にしか理解できないような関係がもっとも固くて、美しいものなのかなと思わされたりもします。

でも自分はベティのようになりたくない!笑 これぐらいの恋愛感情を抱くことがあっても、ゾルグの立場でいたいなあ...笑 というわけでチョイス。

5.ビッグ・フィッシュ

f:id:roserosemoeka:20171128153546j:plain

昔のホラー映画が好きなティム・バートン監督の作品は、『スウィーニー・トッド』や『エド・ウッド』『フランケンウィニー』など怪しくて美しいモノクロ映像も魅力だと思いますが、『ビッグ・フィッシュ』のこのお花畑のシーンの神々しさったら無いのでは無いでしょうか...

f:id:roserosemoeka:20171128182546j:plain

いつもホラ話ばかりする父親とずっと確執があった主人公。しかし父親が病床に伏せてから、初めて自分が知らなかった彼の人生が浮き彫りになっていく...自身も父親と相容れなかった、決して幸福とは言えなかった幼少期を過ごしていたと語るティム・バートン監督の“父と子の和解、許し、愛”の物語です。

ファンタジックな世界観で可愛らしい映像だけれど、『ビッグ・フィッシュ』はじめティム・バートンの作品はとても“大人”だと思います。

今嫌いな人、愛せない人、否定したいこと、どうしても肯定できないこと...それを全部許して「ああ自分はこれをずっと憎んできたけれど、本当はそのことからも影響を受けていたんだ」と、そのことを受け入れて許す作品だから。それができるようになるまでどれくらいの時間がかかるんでしょう...でも全て“自分が今は会得していることなんだ”って思えた時、その瞬間を『ビッグ・フィッシュ』は描ききっているのではと思います。 また現実の世界と空想の世界を行き来しながら自分だけの幸せを見つけていけばいいんだよと、その経験がいつか大事な人を幸せにできるよなんていうことを教えられたような気がします。これからも何度も観返したい作品。

 

結局#名刺代わりの映画10選 散々考えたのですが9作品しか出てきませんでした。笑 半年後にはまた変わってるかも...笑 もっと考察したら自分のことも知れる気がします😂

 

Twitterのタグ#名刺代わりの映画10選 で自己分析記録パート①

最近Twitterのタグで #名刺代わりの映画10選というのをよくお見かけするので、私もやってみました。

 

9個ですね。笑 “自分の名刺代わり”って考えるとオールタイムベストとかおすすめ映画とも違うし、個人的な感情がいろいろ入っている作品を選ぶことになるので難しいし、ちょっと恥ずかしかった!w 今回は今の自分のことを自分で分析(笑)するために、なぜこれらの作品をチョイスしたか記録として書いてみようと思います。誰得だけど自分のブログだからいいよね!!!!!!!

(4作品のネタバレをちょこちょこ含みます。)

恋愛観/趣味、嗜好

1.『裏切りのサーカス

f:id:roserosemoeka:20171126164526j:plain

いろんなSNSで「大好き!」と言いまくっている映画です。

まず単純に、英国紳士のおじさま達が集合しているので大好き♡ジョン・ハートコリン・ファース、ベネ様、そしてゲイリー・オールドマン....洗練された映像もポール・スミスが衣装提供したスーツも全て好みなので、“趣味(?)、嗜好”枠でチョイス。ただ単に“好み”“かっこいい”というだけでなく、恋愛観や人生観に影響を与えてくれた作品でもあります。

スパイという職業は人を騙し、家族にも自分の素性を語ることのできない職業。『裏切りのサーカス』原作者のジョン・ル・カレ御大はご自身がスパイだったということもあり、スマイリーシリーズはスパイ達の苦悩が繊細に描かれています。

決して派手ではなく、“静かさ”や“我慢強さ”といったもの(主人公スマイリーは華があるわけではない、すごく普通の“中年スパイ”として描かれています)が真の強みとなる、というところが共感というか好きな部分です。

あと渋いスパイ映画ですが、心に残るのはキャラクターたちの“愛”。ビル・ヘイドンとジム・ブリドー、リッキー・ターとイリーナ、スマイリーと妻のアン...原作小説でも濃く描かれているスパイ達の愛は、彼らの一番の弱みともなり、また彼らが自分自身を赦す唯一の手段でもあるんです。個人的にはスマイリーからアンへの気持ちが、やっぱり一番...(涙) どんな境遇にあっても“美徳”を守り、誠実な愛を貫くことができたら!という気持ちでこのタグの一作目は『裏切りのサーカス』。

f:id:roserosemoeka:20171126195159j:plain

2.『奇跡の海

f:id:roserosemoeka:20171126195533j:plain

 

ラース・ファン・トリアー監督の作品は...すごくパンチが強いですよね。笑 『アンチクライスト』や『ニンフォマニアック』などなど、主人公の女性が一般的に観て堕落の道をたどる作品が少なくないと思います。『奇跡の海』もまた1人の女性が悲劇的な運命に陥る話といえばそうなのですが、でもすごい映画だと思うの!笑

奇跡の海』主人公はエミリー・ワトソン演じるベスという女性。ベスはとてもおとなしい女性なのですが信仰深く、神様に祈りかける時の表情と声色は全く違う性格かと思うほど少し鬼気溢れるもの。エミリー・ワトソンの演技に圧倒されました。

この作品の大きなテーマの一つは“信仰”です。神様と愛する男性、自分にとってどちらの方が大事か?人を全身全霊をかけて愛するとはどういうことか?試練を乗り越えていった先に待ち受けているものは何か?ベスは悲劇的な結末に終わるのですが、それは果たして彼女からしたら“悲劇”なのか?(犠牲と犠牲“的”は全然違うことですしね。)

自分の恋愛観に大きな影響を与え、毒まじりの説得をさせられたような気分にさせられた作品なのでこれもチョイス。笑

3.『トゥルー・ロマンス

f:id:roserosemoeka:20171127132654j:plain

誕生日にぼっち映画をしていたら、隣に現れたのは運命の女性。しかも自分と同じカンフー映画好き、千葉真一のモノマネを全力でやってくれる女の子!だけれど彼女はコールガール...それならポン引きをぶっ殺して、2人で逃げちゃおう!ゲイリー・オールドマンのブチ切れ演技、秒で殺されるサミュエル・L・ジャクソンなどまさに“映画オタクの、映画オタクによる、映画オタクのための”恋愛映画トゥルー・ロマンス』。笑 

“男女の逃避行映画”はどれもすごく心惹かれるものがあります。大好きな人と2人だけでどこまでもいけたらどんなにロマンチックでしょうか...現実には絶対できなくても!笑 

バイオレンスでエロくておしゃれ、好みがぎっしり詰まった『トゥルー・ロマンス』。つい最近観返していて、「何で今までこのポイントをどうこう思わなかったんだ?」というところに気がつきました。それはアラバマ「昔を振り返って喋っている」スタイルの作品ということ。意外と。「あの頃は「You're so cool!」って叫んで、どこまでも走っていったわ...」みたいな。青春時代の、ただただ「この人のことが大好き!」っていう激情が溢れている映画なのだな、と改めて。

 

f:id:roserosemoeka:20171127133354j:plain

紫のキャデラックで走り出したい...

4.『シザーハンズ

f:id:roserosemoeka:20171127134113j:plain

ティム・バートン監督、ジョニーデップ&ウィノナ・ライダー主演のラブストーリー『シザーハンズ』。

1人で静かなお城にいたのに、たまたま発見されてカラフルな世界に連れ出されてしまうエドワード・シザーハンズ

好きな子ができるけれど傷つけてしまうから、触れることもできない。

周りの人たちにだんだん溶け込めるようになるけれど、結局相容れなくて元の自分の城に引きこもっちゃうエドワード。

好きな人と一緒にいたいけど結局1人の方がいい、喋りたくない、1人にしてほしい...というのはとても共感できる部分です。自分の中にそういう性格がある。笑

ただ『シザーハンズ』のエドワードは、また1人になってもキムへの愛情を忘れずに、綺麗な氷の人形たちを次々と生み出します。悲しく終わってしまった恋愛も何か形に変えて、キムだけにしかわからない形でその愛を伝え続けるという姿勢がものすごく大好きだし、美しいことだと思います。これからどんな恋愛をしていくか分からないし、エドワードのように傷つけてしまうからとまた引きこもってしまうのは良くないけれども...笑 忘れたくない特別な一本。

 

映画も人間も皆1人ずつ違うので「この映画のこのキャラクター、マジで自分の性格にそっくり!」というのは見たことがありませんが、他の人と共有できる概念で自分を現わせる作品を探すのはとても面白いと思います。友達が考えてくれた方が、“名刺代わりの映画”私らしかったりして...笑 続きはまた次で分析してみよっと!

【旧作感想】台湾映画『百年恋歌』恋愛は不確かな中で歩み寄り続けること「Smoke Gets In Your Eyes」歌詞/和訳

 

久しぶりに「しばらく他の恋愛映画は観なくてもいいかな」という気分になる恋愛映画を観た気がします。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督による2005年の映画『百年恋歌』です。

 

(この記事は映画『百年恋歌』のネタバレを含みます。)

f:id:roserosemoeka:20171124132846j:plain

『百年恋歌』は三つの話からなるオムニバス作品

第1話『恋愛の夢

舞台は1966年。兵役を控えた青年がビリヤード場で働く女の子に恋をするのですが、女の子はどうやらあちこちを転々としなければならないらしく...青年が女の子を追う形で展開される、ノスタルジックな恋物語です。

第2話『自由の夢』

今度の舞台は1911辛亥革命寸前の、世の中が動乱に満ちている時代です。今回は遊郭の芸妓と若い革命活動家のお話。2人は惹かれあっているのですが青年革命家は彼女を妾にしようとはせず、しかし芸妓の義妹はどんどん身請けの話が進んでいって...第2話はサイレントですが、芸妓が歌うシーンだけ歌声が流れます。

第3話『青春の夢』

最後の話は2005年。今度は惹かれ合う歌手の女の子とカメラマンの青年の話なのですが、青年にも彼女が、そして女の子にも同性の恋人が...孤独な現代の中で愛を求めてさまよう若者たちの物語でした。

 

面白いのは、すべての恋人たちを同じキャストで演じていること。女性役はスー・チー、男性役はチェン・チャン

f:id:roserosemoeka:20171124133953j:plain

 

1911年、1966年、2005年と全く異なる時代での恋愛模様。もちろんそれぞれその姿は変わります。

携帯電話はないから、家の電話にかける。手紙を出す。若者たちが集うところはビリヤード場。惹かれ合うものもキスシーンなどはなく、初々しい甘酸っぱい気持ちで満たされる、そんな1966年代。

芸妓の彼女は彼のことを待つばかり。電話などの通信機器はもちろん無し。言葉も少なめ。(サイレントだし)1911年代。そして初めてベッドシーンも登場するのが2005年。携帯も普及し、簡単に連絡もとれるし会うことができる時代。ただ便利なこの時代に生きている2人の恋愛が、一番口の中に苦いものがこみ上げてくるように見えました。お互いに恋人がいるわけですし、バイクで疾走するシーンなどは孤独から刹那的に逃避しているようにも見えて...

f:id:roserosemoeka:20171124134852j:plain

ただその中でも一つ、“手段(?)”は変わってもそれは“変わらないもの”として(超わかりにくくてごめんなさい)描かれていたもの。それは“言葉”です。あと、目に見える“文字”この百年のどの時代にも言葉があるのはそれはそうなのですが(笑)少しずつ形は変われど思いの丈を伝える“言葉たち”が印象的に描かれていたように思います。あと、音楽

1966年代、思いを伝えるのは“手紙”。青年は彼女に手紙を送り、だんだんと近づいていきます。そして何度も流れる往年の名曲、プラターズの『Smoke Gets In Your Eyes(煙が目にしみる)』アフロディティス・チャイルドの『Rain and Tears(雨と涙)』

1911年代では“字幕”が2人の気持ちを私たちに伝えてくれます。まんま目に見える“文字”ですね。笑 そしてサイレントですが、芸妓が歌を歌うところだけは音が聞こえます

2005年代では、女の子が歌手の役。彼女はカメラマンの男性のことを思って歌詞を綴り、そして曲を作ります。そして現代では“文字”はメールに。女の子の同性の恋人が彼女の浮気を思い、「死んでやる!」などとパソコンのノートにメッセージを残しているシーンがあるのですが...無機質な液晶の字体なのにどろっとした恋の恨みが伝わってきて、何とも言えない気持ちになった瞬間でした。

f:id:roserosemoeka:20171124141327j:plain

そんな『百年恋歌』なのですが、私が一番好きだったのは第1話の『恋愛の夢』。

“恋愛ってなんだろう”というか“どういう感情や人間関係が恋愛であるのだろう”という疑問の正解はあるのかわかりませんが、個人的に一つ“不確かだからこそ、努力し続ける関係”であるのかな、と思います。自分の気持ちでさえよくわからないこともあるのにましてや他人の気持ちなんて全てわかるわけではないし、人間だからどんどん変化し続けていくし、今の時代は昔よりもたくさんの人と知り合えるからこそ“人間関係”がもろくなりやすいのはあると思います。いつかはどうなるか分からないけれども、違いが一緒に歩いていけるように努力し続けること。

どのお話の主人公たちもとても不安定です。第3話はお互い恋人がいる関係だし、第2話はお客と芸妓、妾にもなれない。第1話は兵役の青年と、あちこち移って生活しなければならない女の子。

f:id:roserosemoeka:20171124142038j:plain

第1話は青年がどんどんどこかへ行ってしまう彼女のことを追って、それでやっと会うことができるんです。再会した2人はお互いに顔をほころばせるけど、なかなか話すことができない。それでも隣り合って一緒にご飯を食べる姿があまりにも初々しくて尊くて、なぜかここで泣きそうになりました。笑

f:id:roserosemoeka:20171124142623j:plain

やっと会うことができたのに、明日の朝には青年は兵役に戻らなければならない。これから2人の関係はどうなるか分からないし、次いつ会えるかも分からない。本当に“不確か”なもの。でも最後雨の中で隣り合って手をつなぐシーンは、“恋愛は不確かなもの”でも“会えたその瞬間と、(冷たい雨の中でも)お互いの手のぬくもりは確かなもの”であると思わせてくれたとても美しいものでした。

 

ホウ・シャオシェン監督自身も若い頃は兵役に行っていて、そしてビリヤード場によく足を運んでいたのだとか。そこで流れていた曲が今作でも使われている『Smoke Gets In Your Eyes』なのだそうで。だから監督は青春時代の情景を作品に蘇らせたってことですね!素敵すぎる...

f:id:roserosemoeka:20171124143156j:plain

この曲を聴くとあの時のあの場所を思い出すとか、あの人のことを思い出すとか...『百年恋歌』は“思い出の歌”が生まれる瞬間を見ることのできる映画であると思います。第1話はその瞬間を主人公2人と一緒に共有している感じがすごくして。第2話の神秘的な雰囲気、第3話の苦くて鈍痛が走るような物語も素敵だったんだけれど、第1話の青春の輝きは尊かった。まじで尊かった。笑

 

どこにいるのか、次はどこに行くのか、自分はどうしていきたいのか、そういった状況の中でももし互いに好きだと言える人ができて、関係が続くように努力していけたらそれは素敵な恋愛なんだろうな...

『Smoke Gets In Your Eyes』の歌詞が映画全体にぴったり(煙草の煙、というキーワードもあるし)でとても素敵だったので、最後に和訳を書いて終わりにします:)

 

『Smoke Gets In Your Eyes(煙が目にしみる)』

 The Platters

 

They asked me how I knew
My true love was true
Oh, I of course replied
Something here inside cannot be denied

They said someday you'll find
All who love are blind
Oh, when your heart's on fire
You must realize
Smoke gets in your eyes

So I chaffed them and I gaily laughed
To think they could doubt my love
Yet today my love has flown away
I am without my love

Now laughing friends deride
Tears I can not hide
Oh, so I smile and say
When a lovely flame dies
Smoke gets in your eyes

 

皆聞いてきたんだ
なぜこの恋が本物だとわかる?
もちろん僕はこう答えた
「心の中に感じるものを否定することはできないよ」

皆が言っている「いつか分かるよ」
恋をすると誰しも盲目になると
恋に燃え上っているときは
その煙で目が見えなくなっていることを
君も気付かなくちゃって

だから僕は皆をからかって陽気に笑い飛ばした
皆僕の恋を疑ってるんだね
でも今日この愛は去ってしまった

僕は愛を失ってしまった

友達は笑って僕をバカにするけど
僕は涙を隠せない

だから僕は微笑んで言うんだ
「愛の炎が消えるとね
その煙が目にしみるんだよ」